研究課題/領域番号 |
20K14230
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
滑川 瑞穂 明治学院大学, 心理学部, 講師 (50774030)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ワルテッグ描画テスト / 描画法 / 抑うつ / 大学生 / 印象評定 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,高い利用可能性を持ちながら国内では十分な使用や研究がなされていないワルテッグ描画テストを用いて,うつに関する描画特徴を抽出することを目的に複数の調査を実施している。 2021年度(2年目)は,初年度に予備調査まで実施したワルテッグ描画テストの8つの刺激図形に対する印象評定について本調査を実施した。予備調査で得られた8つの刺激図形を評定する形容詞対を用いて,大学生167名を対象に対面で質問紙を行った。特に,抑うつ群と健常群とでは刺激図形に対する印象が異なるかどうかを検討した。その結果,1)抑うつ群,軽度中等群,正常群の群間で8つの刺激図形に対する印象に有意差は認められなかったこと,しかし,2)重量感や負担感を想起させる第4図に対して,抑うつ群はより重い刺激図形と認識している可能性があることが明らかとなった。以上から,ワルテッグ描画テストを用いた抑うつの評価には,特に第4図を手がかりとして利用できる可能性があることが示された。 さらに,初年度に10年以上の現場経験を有する臨床心理士の協力を得て,描画の評定方法を整理したが,これを活用して,以前に得た大学生のワルテッグ描画テストのデータをまとめ,健常者の描画特徴を知る手がかりとすることができた。具体的には,大学生159名を対象に調査を実施し,健常者の抑うつ高群・抑うつ低群における描画特徴の違いを検討した。その結果,有意な結果は限定的ではあったが,抑うつ的な人は(1)刺激図形の性質に対する反応性の弱さがある可能性,(2)非生物的・無機的な刺激図形に生物的な絵を描くなど刺激図形の性質から連想されにくい絵を描く傾向があること,さらに実際の描画を1枚ずつ検討し(3)抑うつ的な内的世界が各刺激図形の描画表現から捉えられる可能性,が示された。なお,本研究については,関連雑誌に投稿しすでに受理され,2022年中に掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実施スケジュールと少し異なる面はあるが,2021年度は,①初年度に実施できなかった刺激図形に対する印象評定の本調査,②初年度で考案された評価基準を活用した健常大学生の描画特徴のデータ解析の主に2つを進めることができた。②については,無事に論文が受理された。こうしたことをふまえて,おおむね順調に進展していると判断する。 ただし,コロナ禍の影響によって対面での調査が実施しづらい現状は,本研究にも困難さをもたらしている。描画法は本来であれば,実施者の見守りのなかで実施することが望ましいが,現時点では1つの場所に大勢が集合したり,普段接触の無い参加者に協力いただいたりすることが難しい。 そのため,2022年度は,オンライン上や縁故法等で参加者を募集し,十分に実施方法を説明したのちに,郵送や手渡しで調査書類を配布し,各自の自宅等に持ち帰って調査に協力いただく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
3年目にあたる令和4年度は,健常者とうつ病患者とに2回の調査参加を呼びかけ,2度の調査に生じる描画特徴の変化,健常群とうつ病群との描画特徴の相違について検討したいと考えている。 この調査について,当初の研究計画から以下の変更点がある。まず,調査参加者については,健常者では主に大学生のみを対象にする予定であったが,大学生に限定するよりも成人全体を対象にするほうが幅広い知見が得られると考え,18歳以上の精神的に不調のない参加者を対象にするよう変更した。また,2度の調査の実施時期については,当初は,1回目の翌年に2回目を実施し,その際に対面で構造化面接なども実施する予定であった。しかし,もう少し短い期間での描画特徴の差異を検討したほうが絵の変化をとらえやすい可能性,翌年であると参加者が大きく減少してしまう可能性,非対面が望ましい現状であることの3点を考慮し,約4~6か月の間隔をあけて2回目を実施する予定である。2回の調査参加者に了承いただければ,翌年の調査も実施したいと考えている。また,非構造化面接の実施については,難しいようであれば省略し,抑うつの質問紙上で抑うつの重症度を判断したいと考えている。最後に調査の実施方法について,当初は対面での実施を想定していたものの,感染状況に考慮し,オンライン上や縁故法等で参加者を募集し,郵送や手渡しで調査書類を配布し,各自の自宅等に持ち帰って調査を実施する予定である。 以上の変更点をふまえて2022年度内に,18歳以上の健常者,18歳以上のうつ病の既往歴がある患者に対して,ワルテッグ描画テスト,抑うつの質問紙(BDI-Ⅱ)を2度実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響を受け,国内外の学会にオンラインでは参加しているものの,これまでまったく出張できていない。当初の予算は,国際学会に出かけることもふまえて旅費を確保していた。2022年度は学会の対面実施も増えているため,予算をうまく使用していきたいと考えている。また,人件費についても同様であり,対面での業務は依頼しづらい状況が続いていたが少しずつ感染対策も緩和しているため,今後は増える可能性がある。
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