研究開始時の研究の概要 |
代数の表現論の共通の目標は「代数の加群圏または導来圏の構造を理解すること」である. 係数環が体である整環(=有限次元代数)の場合は有限生成加群圏を理解することが目標であり, 係数環が完備離散付値環であるときは, 加群圏の充満部分圏である格子圏を考察する. 特に直既約加群の分類は基本的な問題であり, 現代の用語では AR 箙とよばれる有向グラフを与えることになる. そこで, 本研究では係数環が完備離散付値環の対称整環の AR 箙の構造論を与えることを目標とする.
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研究実績の概要 |
当該年度は昨年度引き続き, Heller格子の持つホモロジー的な性質およびそれを含む安定Auslander-Reiten箙の構造論について研究を進めた. 対称Kronecker代数のHeller格子を終端にもつ概分裂完全列のもつ性質として, Heller格ZをAR転移τでうつしたときの振る舞いとして, τZに剰余体をテンソルしたものと, 元の直既約加群をAR転移でうつしたものとの間に加群としての同型を得るが, この性質は一般の対称整環でも成り立つことを示している.それより, もとの直既約加群が周期的であれば, 対応するHeller格子も周期的となり, したがってそれを含む安定Auslander-Reiten箙はtubeとなることが予想できるため, これについて研究をすすめた. 現在, 投稿準備中である. Auslander-Reiten箙を決定することは, 与えられた代数の加群圏の構造を決定することに当たる. しかし, そのすべてを決定することは現実的ではないので「ねじれ類」を分類することで加群圏を調べる. 特に有限関手的なねじれ類は台τ-傾加群によって分類できる. そこで, 対称整環の構造論の性質を調べる名目も兼ねて, 多項式増大型の対称代数の台τ-傾有限性を完全に決定した. 対称代数は導来同値でその表現型を保存するという重要な性質をもつが, 多項式増大型の場合にτ傾有限性が保存されるという結果を証明した. 最後に, 昨年度より開始した「表現論の暗号理論への応用」について, 当該年度では「シャッフル」という概念を完全に群論の言葉で理解するという取り組みを行った. 特に, 与えられた有限群Gをその巡回部分群H_1, ..., H_nを用いてG=H_1…H_nという形で表示できるための必要十分条件を与えた. これは情報数理の中で群の元を一様に生成するという計算量的な部分で大きな貢献を与えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 現在までに得た結果を論文にしてまとめ, 各学会で発表することを目標とする. 特に, Brauerグラフ代数の一般化としてSchrollらによって導入されたsymmetric special multiserial代数にも着目し, Heller格子のホモロジー的性質を理解することに努める.
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