研究開始時の研究の概要 |
本研究課題は, 次世代の非侵襲的断層撮影技術である拡散光トモグラフィ(Diffuse Optical Tomography (DOT)) に対する申請者の提案手法の実用化に向けた数学解析である. 申請者はこれまでに, DOT に関連する逆問題に対して実現可能と思われる解法を提案しており, 本研究課題では数値実験により申請者の逆問題解法の実現可能性を議論する. メタマテリアルを利用した観測データの高解像化を並行して検討するが, その前段階としてメタマテリアルと関連する境界積分作用素のスペクトルの解析に取り組む. これらの解析には2つの数理モデルが現れるが, それらの定量的な対応づけにも取り組む.
|
研究実績の概要 |
本研究課題は, 拡散光トモグラフィ (Diffuse Optical Tomography (DOT)) に対する研究代表者の提案手法の実用化に向けた数学解析である. DOT は近赤外光を用いた次世代の非侵襲的断層撮影技術であり, 定常輸送方程式と呼ばれる微分積分方程式の未知係数決定逆問題として数理モデル化される. この逆問題に対して研究代表者はこれまでに実現可能と思われる解法を提案していたが, 観測誤差の影響やデータの観測可能性の定量的な検討がまだ十分になされていなかった. 数学解析および数値計算でこの検討を行い, 研究代表者の提案手法による DOT の実現可能性を明らかにすることが本研究の目的である. 本研究では, 2次元および3次元凸領域において, 少なくとも散乱の影響が小さい (または領域の直径が小さい) 場合には研究代表者の提案手法が機能することが, 数値実験のレベルで確認された. また, 数値計算の精度と関連して, 定常輸送方程式と同様の微分積分方程式である定常線型 Boltzmann 方程式の解の正則性を精査した. 特に, 解の偏導関数の特異性が境界の形状に依存することを示す例を構成した. 本研究課題の計画時には, 研究代表者の提案手法に加えて, メタマテリアルを利用した観測データの高解像化を構想していたが, メタマテリアル内の光の伝播を記述する数理モデルと定常輸送方程式とはスケールが異なるため, 前段階として境界値問題のスケール極限問題を考察することにした. この種の問題には境界層がしばしば現れるため, トイモデルとして定常移流方程式のラプラシアンによる特異摂動問題について考察し, 境界条件による境界層の差異を精査した. また, 別のスケールとして Euler-Poisson 系の解の構造も調べ, 適当な条件下で多次元の局所化された進行波解の非存在を証明した.
|