研究課題
若手研究
心不全は、心臓が原因で全身の血行動態に異常を来している病態であり、全身の臓器に影響を及ぼす。本研究では、最新の脳神経科学の知見を応用して、心不全の病態を心臓ー脳連関の視点から解析する。心不全の状態の脳の変化を捉えることで新たな診断方法を開発し、最終的には脳への介入で心不全を改善するという治療法の開発を目標とする。
心不全の病態は、心臓が原因で循環動態に異常を来すことで全身の様々な臓器に影響が及ぶ。心臓は脳からの制御を受けており、心臓から脳へシグナルが伝達され、中枢で様々な全身からのシグナルと合わさり情報処理が行われ、脳から心臓へとシグナルが返されていると考えられている。前年度の研究では、主に心不全時に脳中枢で起こる変化に焦点を当て、解析を行った。本年度は、そのような変化を引き起こす神経を介したシグナル伝達経路に注目した。心不全患者では交感神経活性が亢進しており、副交感神経の活性を上げる事が予後の改善につながると考えられている。そのため心不全患者に対する迷走神経刺激による治療が長年試みられているが、残念ながら予後の改善に至っていない。その原因として現在の技術では神経を束としてしか刺激することができないということが考えられる。心不全を改善することのできる神経細胞を同定し、その神経細胞の活動を特異的に制御することで、心不全改善につながるかを検討することとした。心臓へのストレスは迷走神経下神経節及び脊髄後根神経節からの求心性神経を介して脳へ伝達される。心不全の病態でどのように神経が心臓へのストレスを受容しているかを調べるために、マウスの心不全モデルにおいて下神経節及び後根神経節の遺伝子発現解析を行ったところ、下神経節及び胸部、腰部レベルの後根神経節において有意な遺伝子発現の変動が認められた。特に胸部レベルでの後根神経節において遺伝子発現変動が大きく、心臓へのストレスを主に感知している部位と考えられた。次に、特定の神経の機能を制御するため、その標的となる神経伝達物質及びGタンパク質共役受容体を検討することとした。その結果、遺伝子発現変化の大きい神経伝達物質及びGタンパク質共役受容体を複数同定した。今後、それぞれの標的に介入することで、心不全病態の改善につながるか検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
心不全の病態において、心臓のストレスを感知して起こる神経節の遺伝子発現変動を捉え、また、脳内で起こる変化を網羅的に解析した。今後の新たな心不全治療開発の基礎となる知見を得た。
本研究課題で得た知見を心不全治療に応用するため、一細胞単位での神経機能制御を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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