研究課題/領域番号 |
20K18381
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分56060:眼科学関連
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
春木 智子 鳥取大学, 医学部附属病院, 助教 (90838153)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 間葉転換 / 角膜 / 角膜内皮細胞 / HSV |
研究開始時の研究の概要 |
これまで、角膜内皮がなぜ加齢とともに機能障害をおこす症例が増えていくのかはわかっていない。この現象は、単なる加齢だけでは説明できないと考えている。本研究では、角膜内皮の機能障害は、内皮の間葉転換としてとらえ、これが、ウイルスの持続感染により誘発されるのでないかと考え、角膜内皮が間葉転換をおこす機序を解明しようとする。 これまで、間葉転換した角膜内皮をもとにもどすことはできていない。もし、もどすことができれば、その学術的重要性は高い。とくにエクソソームとmiRNAを用いる手法は、初代培養角膜内皮細胞への負担も軽く、創造的であり、制御機構の解明に迫れる可能性がある。
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研究実績の概要 |
水疱性角膜症は、角膜混濁による失明の原因として重要である。水疱性角膜症は角膜における内皮細胞の機能不全によって引き続きおこされる。その重要な原因として、加齢のみならず単純ヘルペス(HSV)をはじめとする角膜や前眼部の感染がきっかけとなる。こうした角膜内皮細胞の機能障害は角膜内皮細胞の間葉転換(MT)をきっかけとして生じ、一旦間葉転換をおこすと正常な機能は復元できない。そこで間葉転換を入れるスイッチを探索するため、角膜内皮細胞へのHSV感染モデルを採用し検証をすすめつつある。この角膜内皮細胞感染刺激モデルを用いて転写ネットワーク解析を行った。その結果、感染モデルネットワークにおいては、間葉転換に重要な役割をはたす分子群の関与を見いだした。さらに、感染後角膜内皮細胞における転写ネットワークにおけるmaster regulatorを探索した。Master regulatorの一つとして interferon regulatory factor 7(IRF7)を見いだし、その寄与を検証した。一方、HSV感染後の角膜内皮細胞の主要ネットワークは、抗原提示機能である。 このため、抗原提示機能、小胞体ストレスと間葉転換の関連性を検証しつつある。まず、感染後角膜内皮において誘導されるIRF7は、抗原提示機能に必須であるMHC class I分子の感染後誘導に必須であることを見いだし、引き続き上皮間葉転換との関連性の検証にすすんでいる。次に、角膜内皮細胞における間葉転換の制御の可能性を探るため、汐田教授との共同研究を開始し、化合物ライブラリーより間葉転換の阻害剤候補を抽出した。これを用いて、角膜内皮細胞における毒性試験を施行し、次に間葉転換の制御能に関して検討を進めつつあり、有望な候補物質を見いだしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
角膜内皮細胞における間葉転換の誘導に関わる経路として、ウイルス感染が重要であることが判明している。古典的間葉転換経路が、いかに炎症ストレスとクロストークするのかの解析をすすめつつある。角膜内皮細胞において、間葉転換の指標となる分子としてVimentin, E-cadherin、αSMAがあるが、経路の詳細を明らかにするため、間葉転換の関与する分子群(KLF4, DLL1, Notch1, TWIST1/2, SLUG, SNAIL, ZEB1/2)の寄与をさらに検証している。これまで、IRF7が感染後ストレスネットワークのmaster regulatorとして重要であることが判明した。次に、IRF7が感染後に生じる間葉転換に関与するかを検証した。その結果、IRF7の寄与が明らかになってきたが、その詳細を明らかにするため解析をすすめつつある。転写レベルにおける調節における寄与を明らかにすることを目的に、間葉転換因子群へのプロモータへの寄与を検証するため、Wnt/β-catenin Signaling Pathwayを含めた間葉転換制御のためのプロモータアッセイ系を確立した。一方、間葉転換を制御できれば、感染や加齢などにより生じる角膜内皮細胞の機能障害の進行を防止できる可能性がある。これにより、角膜内皮移植の必要性を減らすことができる。 このため、より直接的な間葉転換の制御ストラテジーもあわせて検討をすすめている。このため、Wnt経路の制御化合物探索のため、汐田教授との共同研究を開始した。これにより、有望な新規制御化合物候補の検証に入りつつある。角膜内皮細胞への毒性試験、さらに間葉転換の制御能、プロモーターの阻害活性の検証のためアッセイ系を確立し、IRF7を含めたmaster regulatorとのクロストークの解析に入りつつある。
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今後の研究の推進方策 |
間葉転換は、一般に初代培養細胞系でみられる現象であり、安定して間葉転換実験系を探索的に確立することは困難である。ひとまず、この技術的問題点を回避するため、本研究においては、不死化培養角膜内皮細胞系を用いて間葉転換の制御機構を探索している。また、この培養細胞系においては、ウイルス感染刺激において、VimentinやE-cadherinの誘導が安定的に観察できている。さらに、経路の検証のためには、遺伝子編集や遺伝子欠失細胞での検証が必要であり、細胞株も樹立している。一方、本研究は、臨床応用を念頭においているため、平行して間葉転換制御の標的薬剤のスクリーニングも必要とする。このために、たとえば、Wnt経路を阻害する薬剤探索のための化合物スクリーニングが一つの手段となる。 このため、これらの化合物スクリーニングを行ってきた汐田教授との共同研究を開始した。候補阻害化合物を用いて、角膜内皮細胞に対して毒性があるかどうかの検証、Vimentinや E-cadherin誘導に始まり、プロモータレベルでの制御の検証を行っている。これにより、感染や炎症にかかわるネットワークとWntを介するネットワークが間葉転換にいかに関わり、かつ制御されえるのかを含め、臨床応用を念頭に検証をすすめつつある。
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