研究課題/領域番号 |
20K18736
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分57060:外科系歯学関連
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
川嶋 理恵 自治医科大学, 医学部, 客員研究員 (10814444)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 口腔癌 / OPMDs / 腫瘍微小環境 / 免疫多様性 / 免疫組織化学染色 / 多重免疫染色 / 定量解析 |
研究開始時の研究の概要 |
がん形成過程において腫瘍微小環境の免疫多様性が重要であることが分かっているが、口腔がんの治療選択や予後予測のための明確なバイオマーカーは特定できていない。申請者らは、患者から採取された1枚の組織切片を用いて、最大12色の多重免疫染色によりがん細胞や免疫細胞、免疫チェックポイントを検出し、定量と局在の視覚化を可能とする多重免疫染色定量解析法を開発した。 本研究ではこの技術を口腔がん、Oral Potentially Malignant Disorders (OPMDs) に応用し、腫瘍微小環境の解明とともに治療選択や予後予測のための新規バイオマーカーの特定を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では口腔癌をはじめ、白板症、扁平苔癬などのOPMDsについて、臨床検体を用いた多重免疫染色定量解析法を用いて治療選択や予後予測となりうるバイオマーカーを特定し、病理組織学的な指標を定めることを目的とする。 腫瘍の浸潤、転移などの発生過程において腫瘍微小環境では、腫瘍促進、腫瘍抑制の観点から免疫細胞(リンパ球系細胞/骨髄球系細胞など)の局在や機能が非常に重要と考えられている。本研究ではターゲットを免疫細胞や免疫チェックポイントに絞ってきた。 前研究室にてわれわれが確立した腫瘍微小環境を反映した免疫細胞プロファイリングパネルを用いた多重免疫染色定量解析法では、最大12種類のマーカーを1枚の臨床検体パラフィン切片の解析が可能である。令和2-3年度には、現研究室でもこれらの解析が可能となるよう、抗体や試薬の至適化を行い環境を整えた。 しかし研究を進めるにつれ、腫瘍微小環境の評価を行うには免疫細胞のみならず腫瘍間質での反応も非常に重要であることが分かった。そこで腫瘍間質反応として癌関連線維芽細胞(CAFs)や転移を起こす際に癌細胞上で起こる上皮間葉転換(EMT)、線維化反応に注目した。令和4年度には、新たにこれらの間質反応も評価可能な免疫細胞/免疫チェックポイント/EMT/CAFs/線維化反応プロファイリングパネルを構築し、多重免疫染色定量解析法のプロトコールを確立した。これにより、1 枚の臨床検体パラフィン切片より約30種類のマーカーの検出、解析が可能となった。 当初の予定に加え新たなプロファイリングパネルの構築には多くの時間を費やしたが、1枚のパラフィン切片から検出可能なマーカーが12種類から約30種類に増えたことは、本研究の今後の発展に大いに役立つと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前研究室にて確立した多重免疫染色定量解析法では、1枚のパラフィン切片にて解析可能なマーカー数は12種類であったため、リンパ球系免疫細胞パネル、骨髄球系免疫細胞パネル、T細胞機能分類パネルの3パネルの定量解析を行うには、1症例の臨床検体から最低3枚の連続パラフィン切片が必要であった。しかしながら腫瘍微小環境の評価を行うには、免疫細胞のみならず腫瘍間質での反応も非常に重要であることが分かり、間質の反応として癌関連線維芽細胞(CAFs) や転移を起こす際に癌細胞上で起こる上皮間葉転換(EMT)、線維化反応についても解析項目に加えた。 そこで令和4年度には、2020年に私が共同著者として発表した論文(Banik, G, et al. Methods Enzymol 635: 1-20. 2020)にて確立した1枚のパラフィン切片から最大29マーカーを検出できる多重免疫染色定量解析法を応用して、上記のリンパ球系免疫細胞パネル、骨髄球系免疫細胞パネル、T細胞機能分類パネルの各細胞・分子マーカーに、新たにCAFsやEMT、線維化反応を評価するためのマーカーを加え、各細胞/分子の抗体濃度などの実験条件の至適化を行い、全30マーカーからなる独自の免疫細胞・腫瘍間質評価系プロファイリングパネルを構築した。これにより、1枚の臨床検体パラフィン切片より30種類のマーカーの検出、解析可能となった。ここまでの期間においては基礎となる実験の条件検討が主であったが、現在は本実験に向けて症例の抽出を行っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は令和4年度に構築した全30種類のマーカーからなる免疫細胞・腫瘍間質評価系プロファイリングパネルを用いて、本実験であるOPMDs,口腔癌のヒト検体パラフィン切片を用いた多重免疫染色を行う。 白板症や扁平苔癬などのOPMDsについては、上皮異形成の程度(Severe, moderate, mild)や帯状リンパ球の浸潤の程度により分類して解析を行い、悪性化、予後との関連を明らかにする予定である。しかしながらOPMDsについては現在においても日本、ヨーロッパ、アメリカと診断基準が異なり世界共通の基準がなく、症例は慎重に抽出する必要がある。その抽出方法については現在も慎重に熟考を重ねている。 口腔癌については、頸部リンパ節転移を起こした約60症例をすでに抽出しており、各免疫細胞の浸潤程度、免疫チェックポイントの発現程度、CAFsの浸潤程度、EMTを起こしている癌細胞の割合、線維化反応の有無などを解析項目とし、生検検体、切除検体を用いて免疫チェックポイント阻害薬使用患者と予後との関連に焦点を絞る。 これらの検体を用いた多重免疫染色では、各マーカーの染色ごとに画像をスキャナーに取り込み、全染色が終了後に画像の重ね合わせを行う。定量については全免疫細胞 (CD45 陽性) が集中した Hot spot を抽出し、各マーカーの陽性細胞数のカウントを行い、各マーカーの局在を可視化する。陽性細胞のカウント結果は、現研究室で令和4年度までに構築済みである解析ソフト (FCS Express) を用いて定量を行い、組織画像と合わせ最終的な解析を行う。定量・局在結果は、 臨床経過や治療効果、予後、生存率などの臨床情報と照らし合わせ、OPMDs, 口腔癌の特異的なバイオマーカーの特定を行う。
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