研究課題/領域番号 |
20K21167
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
西川 浩之 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (40264585)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 円偏光発光 / キラル誘起スピン選択 / キラル伝導体 / 発光デバイス / CP-OLED / キラル輸送材料 / キラリティ / 有機薄膜 / キラル誘起スピン選択性 |
研究開始時の研究の概要 |
円偏光発光(CPL)材料を用いた発光デバイスは,三次元表示ディスプレイや医療診断への応用など幅広い分野への応用が期待されている。CPLを発する有機ELの報告例はあるものの,円偏光性の度合いを表す値であるg値が小さく,実用研究への障害となっている。本研究では,有機ELデバイスの電荷輸送層にキラル誘起スピン選択性効果を利用することにより,高い円偏光特性を示す円偏光有機発光ダイオードの開発を目的とする。本研究は,有機ELデバイスに光学遷移過程におけるスピン選択性の概念を電荷輸送層に適用した,従来のデバイスとは根本的に異なる構造を持つ革新的デバイスの開発を目指した研究である。
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研究実績の概要 |
本研究は円偏光を発光する円偏光有機発光ダイオード(CP-OLED)の電荷輸送層にキラル誘起スピン選択性(CISS)効果を導入することにより,高い電界円偏光発光特性を示すCP-OLEDの開発を目的とする。CISS効果を示す輸送層として,p型半導体であるポリチオフェンの側鎖にキラリティを導入したキラル半導体を新たに合成し,それをホール輸送材料に用いることを検討する。また,電子輸送層としてはn型半導体であるペリレンジイミド誘導体にキラリティを導入した材料として,比較的発光効率が低いナフチル置換キラルペリレンジイミド誘導体を検討する計画である。 昨年度は凝集誘起増強円偏光発光を示すキラルペリレンジイミド誘導体,(R,R)-および(S,S)-BPPをキラルドーパントとしてアキラルな発光性ポリマーであるPFOにキラルドープした薄膜のデバイス化を試みたが,CPELが観測されなかった。ガラス基板上に薄膜を形成することと異なり,ITO電極およびホール輸送層の上に成膜した場合,PFOへのキラリティの転写が効率的でないことが考えられる。また,キラルなホール輸送材料としてp型半導体であるポリチオフェンの側鎖にキラルな置換基を導入した高分子材料について検討したが,CD強度が小さくCISS効果の発現が期待できなかったことから,昨年度はホール輸送材料に利用されているPEDOTのエチレンジオキシ部位にアルキルスルホ基を導入し,ポリマーの主鎖により近い位置にキラリティを導入した輸送材料の開発を行った。キラルなPEDOTの薄膜はPSSによるドープを行うことなしに,比較的高いホール輸送能を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の中心となる研究項目である,円偏光(CPL)を発光する有機ELデバイス(CP-OLED)の作製に必要不可欠な装置である,真空蒸着装置を連結させたグローブボックスの購入を初年度に計画していたが,購入の契約段階で事務的な不備があったことから,昨年度(2年目)の納品になり,装置の立ち上げが終了し,実際に使用できるようになったのが2年目の年度末であった。そのため研究計画がおおよそ1年遅れることとなったことから,1年の研究計画の延長を申請し受理された。本年度は新たに導入した装置を用いることにより,キラルなペリレンジイミド誘導体を発光層に用いたデバイスのEL特性,特にデバイスの寿命を大幅に向上させることに成功し,市販の装置でCPELの測定にも成功した。また,アキラルな発光ポリマーであるポリフルオレンにキラル分子をキラルドープした薄膜から,比較的高い円偏光特性を有するCPLの取り出しに成功しているが,その薄膜を用いたデバイスの作製を行った。しかし,デバイス化することによりCPELが観測されなかった。このことは,単にガラス基板上に作製したキラルドープ薄膜と異なり,ITOおよびホール輸送層の上に作製した薄膜では,ポリマーへのキラリティの転写が効果的に起こっていないことが示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
アキラルな発光性ポリマーのキラルドープ薄膜のデバイス化については,発光性ポリマーをPFO以外のポリマーであるF8BTを用いて検討する。PFOは薄膜の作製条件によって様々な構造を取りやすいことが知られている。F8BTはこれまでにキラルドープ型薄膜のCP-OLEDで高い円偏光効率を示すことが報告されていることから,F8BTを発光材料に用いたデバイスを作製し特性評価を行う。 さらに,本年度合成に成功したPEDOTにキラリティを導入したキラルホール輸送層を用いたデバイスを作製し,CISS効果による円偏光特性の向上を検討する。キラリティを導入したキラルホール輸送材料としては,本年度,p型半導体であり有機ELのホール輸送層に広く用いられているPEDOTのエチレンジオキシ部位にアルキルスルホ基を導入した材料の合成を完了している。この材料は置換基末端のスルホ基がイオン化しPEDOT主鎖を自己ドープすることから,ホール輸送能の発現にPEDOT:PSSと異なりアクセプターを必要としない。このキラルホール輸送材料を用いたデバイスの作製を行う。発光材料としてはキラルなペリレンジイミド誘導体以外に,高い外部量子効率を示すものの円偏光特性は大きくないキラルな熱活性遅延蛍光材料を用いることにより,CISS効果を効率的に評価する。また,キラルな輸送材料として無機物で報告があるペロブスカイト型有機-無機ハイブリッド材料もあわせて検討する。
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