研究課題/領域番号 |
20K21783
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分60:情報科学、情報工学およびその関連分野
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
塩田 茂雄 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (70334167)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2020年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | ソーシャルメディア / Twitter / 情報拡散 / リツイート / SIRモデル / 合意形成 / 安定分布 / 合計形成 / ユーザ行動 |
研究開始時の研究の概要 |
Twitter等のソーシャルメディアにおいて日常的/非日常的に見られる種々の情報の投稿と拡散の多様な現象には,幾つかの共通する特徴が見い出される.数個の物理法則から自然界の様々な現象が生じるように,ソーシャルメディア上のこれら多様な現象は,一般ユーザの少数の共通行動原理から生み出されると予想し,実データに基づきその行動原理を解明する.その際に,ユーザ間の個人的つながりだけではなく,共通の公共インターネット空間を介した情報拡散の影響を陽に取り入れる.加えて,実規模シミュレーション等により,ソーシャルメディア上の現象を個々のユーザの行動原理に基づき精緻に再現・予測する技術を確立する.
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研究実績の概要 |
以下,項目別に述べる. (1)ソーシャルメディア上の情報拡散の第一原理モデルの構築とその解析手法の開発: Twitterにおけるリツイート回数の確率的な特徴(分布の裾がに長いことなど)がマタイ効果と呼ばれるメカニズムに起因すると予想し,その予想に基づくモデルの構築と,モデルから予想される結果と現実との比較を進めている.令和4年度は,モデルの構築とモデルから数学的に導かれる結果の導出に概ね成功し,その結果を国際会議(The 9th International Conference on Social Networks Analysis, Management and Security)で発表した,会議ではBest Paper Awardを受賞した. (2)ソーシャルメディア上の合意形成過程と合意結果の数学的特徴の分析: ソーシャルメディア上の合意形成過程の数学的な特徴,特に各参加者が自分と隣接エージェントの意見の重み付き平均をとって自分の意見と置き換えることを繰り返す合意形成過程について考察している.令和4年度は,ゴシップ型アルゴリズムによる合意形成過程について考察し,参加者が意見を交わす順番に依らず,常に同じ合意結果が得られることを数学的に証明した.この結果はブロードキャスト型アルゴリズムとは対照的である(ブロードキャスト型では,参加者が意見を交わす順番に合意結果が大きく依存する).また,この結果は,完全グラフ以外でも成立する.加えて,本年度は合意形成過程の時間反転過程について考察した.合意形成過程の時間反転過程は,合意結果の全ての実現値をエルゴード的に訪問する過程に相当していることを証明し,時間反転過程の観察により合意結果の分布が得られること,特に,ゴシップ型アルゴリズムにおいては時間反転過程は時間に依らず一定値を取ることをなどを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症による影響が部分的に残り,国際会議への参加などを初めとして研究活動に制限が多少残った年度ではあったが,学術的に興味深い結果を得ることができた. 1. リツイート回数の確率的な特徴を再現するマタイ効果を取り込んだモデルについては,綺麗な数学的結果を得ることができた.モデルは非常に単純であり,現実データの再現性も良好であり,様々な拡張が可能であると考えている.例えば,様々な社会的格差をマタイ効果に基づいて説明・分析するモデルとしての拡張も有望である. 2. ソーシャルメディア上の合意形成過程についても,数学的に深い結果を得ることができた.特に,ゴシップ型アルゴリズムにおける合意結果の唯一性,非完全グラフへの拡張,合意形成過程の時間反転過程に関する種々の性質(エルゴード性など)の発見は,令和4年度の重要な成果である.また,「研究実績の概要」には記載できなかったが,現実のSNSでしばしば生じる「合意不全現象」のメカニズムについても部分的に着手することができ,国内の学会で発表した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)ソーシャルメディア上の情報拡散の第一原理モデルの構築とその解析手法の開発: 令和4年度に概ね完成した「マタイ効果によるリツイート回数の確率的な特徴の再現モデル」については,論文化を行う.加えて,マタイ効果により情報拡散が加速する機構などを取り入れた情報拡散モデルを構築し,モデルの性質を数学的に分析するとともに,具体的な解析手法(数値評価手法)を検討する.また,複数の情報が同時に拡散する際の競争メカニズムをモデルに加味する.なお,本テーマについては,令和5年度に予定されているTwitter APIの仕様変更(有料化,データ取得制限の大幅変更)により研究計画の変更を余儀なくされる可能性がある.実際にTwitter APIの仕様変更が行われた場合には,NTTデータが提供する「Twitterデータ提供サービス」などの利用を検討するとともに,その利用が難しい場合は,研究計画を適宜変更する. (2)ソーシャルメディア上の合意形成過程と合意結果の数学的特徴の分析: ゴシップ型アルゴリズムを含む様々な合意形成アルゴリズムについて,非完全グラフを前提に分析を行い,論文化まで進める.また,現実のSNSでしばしば見られる合意不全現象のメカニズムについて考察し,数学的な結果を得る.加えて,ビザンチン将軍問題などを加味した合意形成問題の枠組みについて考察し,ブロックチェーンにおける合意形成問題などへの適用を検討する.
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