研究課題/領域番号 |
20KK0301
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研究種目 |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
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配分区分 | 基金 |
研究分野 |
社会法学
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
柴田 洋二郎 中京大学, 法学部, 教授 (90400473)
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研究期間 (年度) |
2021 – 2023
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
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キーワード | 職業訓練個人口座(CPF) / 労働者主導の知識や技能向上 / 職業移行計画(PTP) / 集団的移行(TRANSCO) / 不安定雇用層の主体性 / 持続的な社会的包摂 / 職業訓練 / 雇用能力(職業能力) / 雇用保険(失業保険) / 個別的職業訓練口座 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、不安定雇用層の主体性を雇用能力の向上につなげる制度の日仏比較から、この層が就労により自立し、持続的な社会的包摂に至るための法制度の構築を目指すものである。そのため、日本で不十分な考察にとどまっている、フランスにおける雇用される側の意欲を活用する制度を検討する。具体的には、フランスで「すべての者」の権利である職業訓練とともに、訓練の受講を促進する労働者の諸権利や訓練中の所得保障(失業保険)という隣接領域も対象に加えて比較研究を行う。
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研究実績の概要 |
本研究は、「不安定雇用層の主体的な意欲を活用して雇用能力の向上につなげる法制度」について日仏比較研究を行うものである。その背景には、使用者主導の方策(たとえば、雇用市場への参入が困難な労働者を雇用する使用者に財政支援等を行い、使用者に雇用創出を促すこと)では限界があり、労働者主導の知識や技能の向上政策が重要であると考えたことがある。そこで、フランスの職業訓練個人口座(CPF)を考察した。CPFは、被用者だけでなく、自営業者や求職者にも開設される口座で、保持者の主導により、仕事の知識や技能の向上に利用できる金額がチャージされる(チャージされた金額の使途が、公的資格が獲得できる職業訓練等に限定されているところに重要なポイントがある)。 CPFは独自性の強い制度である。また日仏の社会的背景や雇用システム等の違い(たとえば、学位や職能資格の社会的重みやそれらの賃金決定への影響)も考慮すればなおさら、CPFを直輸入することは考えづらい。それでも、この仕組みは、不安定雇用の労働者の増加、雇用システムや働き方の変化がみられているわが国で、今後、仕事の知識や技能の向上を目指す政策を検討する際に注意すべき点を示していると思われる。 具体的には、CPFの特徴は、被用者だけでなく、自営業者や求職者も利用できる「普遍性」、労働契約と切り離された権利である「個人性」、転職・失業しても使用できる「移転可能性」にある。これらの特徴は、上述の変化がみられるわが国の制度設計においても参考とすべき点である。他方で、CPFは、最も職業訓練の必要とされる学卒無業者が対象となっておらず、また、失業時にはチャージされないため、事前に十分な残高がないと権利を行使できない。これらは就労とのつながりを完全に切り離した制度設計の難しさを示唆する。したがって、制度設計にあたり、就労との関連を考慮する方法や程度が重要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランスに長期滞在しながら現地調査を行った。本研究は、日仏比較を重要な柱としており、研究計画調書に記載した時期からフランスで研究者や実務家に話を伺うことができたことで、適切なタイミングでフランスの動向把握や制度分析ができた。 特に、不安定雇用層の重要なカテゴリーである「非正規労働者」「失業者」「障害を有する労働者」も適用対象に含んでいる、職業訓練個人口座(CPF)について検討を進め、そのまとめとして論文を執筆することもできた。そのため、本研究は「おおむね順調に進展している」。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の3つの視点から研究を進めたい。 第一に、あらためて「使用者主導」の知識や技能の向上政策を確認することである。たしかに、本研究に至った経緯には、使用者主導の方策の限界がある。しかし、使用者主導の方策はなくなったわけではなく、また限界を克服するための改革も行われている。使用者主導の方策にかかる改革の内容や方向性の検討が必要である。 第二に、「使用者と労働者が共同で主導」する方策の検討である。これについて、フランスでは、交互制職業訓練(訓練センターや高等教育機関での理論と、企業での実務を交互に行う形の技能育成)や即戦力養成(Preparation operationnelle a l'emploi)と呼ばれる仕組みがあり、これらの制度内容の検討を行う。 第三に、フランスでは「労働者主導」の知識や技能の向上政策の延長線上で、転職・職務転換を促進する政策に力を入れるようになっている。これは変化の激しい時代に、人員過剰あるいは需要のなくなった部門から、人手不足あるいは新興の部門へと「解雇を経ずに」労働力を移動させる政策として興味深い。こうした制度の内容を考察したい。
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