研究概要 |
ハミルトン系カオスの研究はポアンカレ以来の長い歴史をもつが,近年では非常に緩い変動を生み出すメカニズムの解明に向けて世界的な関心が高まっている。本研究では,ハミルトン系(特に高次元系)の軌道の拡散過程が生み出す異常な挙動から,数値計算及び理論計算によってスケール則を明確に導き出すことに挑戦した。これによって,アーノルド拡散の中に,無限測度エルゴード性が内蔵されていること,さらに対数拡散<n^2>~(logn)βが出現すること,さらにカオスとトーラスの境界領域におけるいくつかの普遍的性質を初めて明らかにした。 次にこれらの結果は従来の研究で指摘されていた多くの事実とも整合性がとれていることを明らかにできた。例えば,ゆらぎのスペクトルがf^<-v>であること,およびアーノルド拡散の特性時間(ネコロシェフ時間)の分布が対数ワイブル則に従うことや無限測度系の緩和の理論などが本研究の結果から確認できたことは大きな収穫であった。無限測度エルゴード定理を基礎においてハミルトン系のslow dynamicsを解明しようとする研究は我々のグループが最初であるが,この意味でも大きな貢献ができたと思っている。 無限測度エルゴード性の普遍性の側面から見ると,本研究の成果はハミルトン系に限らず,多くの散逸力学系に発生するslow dynamicsの理解にも大きく貢献することが期待できる。Strange Nonchaotic Attractor(SNA)が示す異常拡散と大偏差特性がハミルトン系のそれと同じ解析で導かれることも示され,次の研究へと繋がる成果であった。また,ヘテロクリニック乱流(偏微分系)の強い間欠性が示すslow dynamicsにも類似の異常大偏差特性が発見できたことにより,散逸系も含めた新たなエルゴード理論への展開を十分に準備することができ,有意義な成果を上げることができた。なお,まだ出版されていない成果については,順次論文にして公開してゆく予定である。
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