研究概要 |
本研究の目的は、ミトコンドリアDNA突然変異解析を用いて、Barrett食道から食道腺癌の発生過程を明らかにすることである。ラット十二指腸液逆流モデル(以下逆流モデル)に発生した各種病変(Barrett食道、食道腺癌、扁平上皮の異形成、扁平上皮癌など)におけるミトコンドリアDNA突然変異の有無をCytochrome c oxidaseの免疫染色と酵素組織化学染色により検討した。逆流モデルは、胃ー食道接合部を切離し、食道-上部空腸を端側吻合したものを用いた。これまで、我々は、高脂肪食の摂取により、胆汁中の胆汁酸分画が変化し、タウリン抱合胆汁酸が増加することを報告した。このタウリン抱合胆汁酸が、食道に逆流した際に食道粘膜の障害が強くなり、Barrett食道から食道腺癌の発生率が増加することを同時に報告した(Chen KH,et al.Cancer Science,2007)。よって、本研究でも、逆流モデルを高脂肪食(Quick fat,containing 13.9% cow fat,CLEA)摂取群と、普通食群(4.80% soybean oil)の2群にわけ、手術後10、20、30週にて屠殺後に食道を摘出、各種食道病変に対してCytochrome c oxidase活性の有無を検討した。Cytochrome c oxidase陰性細胞は、ミトコンドリアDNA突然変異の際に認められる。本研究では、Barrett粘膜に見られるCytochrome c oxidase陰性細胞は、手術後の時間の経過とともに増加した。また、Cytochrome c oxidase陰性細胞数は、高脂肪食群の方が、普通食群よりも多い傾向が見られた。また、Cytochrome c oxidase陰性細胞は、Barrett食道の増殖帯に一致して出現し始めることが認められ、腸杯細胞を有するBarrett食道は、大腸粘膜と同様にcrypt fissionによって増殖、伸展することが示唆された。また、Cytochrome c oxidase陰性細胞は、Barrett粘膜ではない、炎症性の重層扁平上皮においても認められた。しかし、ミトコンドリアDNA突然変異と発癌との因果関係については明らかにできなかった。
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