研究課題/領域番号 |
21H01806
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
扇澤 敏明 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (80262294)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 表面物性 / 粘着 / ゴム / メニスカス / 粘弾性 |
研究開始時の研究の概要 |
薄い液体膜の上に固体微粒子を置くとメニスカスが形成され、それによって発生する力によって接着力が働く。液体膜の代わりにゴムのような粘弾性体を使っても同様のことが起こる。ゴムの多くが多かれ少なかれ「べたつく」ことから、このメニスカス形成が粘着現象に関連している可能性が高い。本研究では、ゴムと固体微粒子(セラミックス、高分子)の表面特性、これらの間に働く力、ゴムの粘弾性とメニスカス形成などの現象を詳細に解析し、表面・界面科学的な立場から粘着現象発現機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
令和3年度において、10μm前後の粒径を有する固体微粒子の沈降現象が粒子種に依存せず、ゴム種に依存することを明らかにした。これは、ゴムの特性、特に表面張力が沈降現象の支配因子であることを意味している。ただし、沈降速度はゴムの表面張力の大小と一致しなかった。そこで、本年度はこの沈降速度の支配因子を探るべく、自動車のタイヤ用ゴムの主成分であるスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いて、詳細な検討を行った。試料には、重合法、分子量、スチレン含量(15~42%)、油展の有無等の異なる各種SBRを用いた。スチレン含量が異なるとガラス転移温度や表面張力が変化するが、沈降速度はこれらの違いよりも分子量に大きく依存し、高分子量のものほど沈降が遅い結果を示した。沈降には粒子の下のゴムのはける速度が重要であると考えられることから、SBRのさまざまな粘弾性の測定を行った。その結果、ゼロせん断粘度が沈降の速度に大きく影響していることが明らかにされ、沈降現象は非常に長い時間スケールで観察されるためであると考えられる。 (令和3年度において購入した)高解像度マイクロスコープと原子間力顕微鏡(AFM)を使用して、プローブとして用いる固体微粒子表面に形成されるゴムのメニスカスのリアルタイム形状観察と微粒子とゴムの間に働く力の同時計測を行ったが、形状変化をうまく測定することができなかった。それゆえ、AFMの代わりにこれらを同時計測するための装置を試作した。やはり、10μm前後の粒径の微粒子ではメニスカスの形状を詳細に測定することは困難であったことから、より大きな粒子を用いて剥離過程の測定を現在行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」にも記載したように、令和3年度に固体微粒子自身の特性や固体微粒子とゴムとの界面に働く力ではなくゴムの表面張力がその沈降現象の支配因子であることを明らかにし、さらに4年度にその沈降速度がゴムの粘弾性、特にゼロせん断粘度が大きく影響していることを明らかにした。これらは、粘着剤の主要成分の1つであるゴムの粘着現象にかかわる主要物性である表面特性と粘弾性に関して得られた非常に重要な知見である。 固体微粒子表面に形成されるゴムのメニスカスのリアルタイム形状観察や原子間力顕微鏡を用いた固体微粒子とゴムの間に働く力の同時計測については、当初の10μm前後の粒径の固体微粒子を用いた場合において難しいことがわかったが、試作した装置により100μm以上のものでは測定ができる目途がついている。これによってデータの蓄積を行うことにより、剥離過程におけるゴムの形状と力に関する多くの知見が得られれば、「メニスカス力が粘着機構の主要因であるか」について、ある程度の考察が得られるものと考えられる。このことが粘着現象の解明につながる。 これらのことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平らなゴム表面に固体微粒子(粒径100μm以上)を接触させた後の剥離過程に対して、高解像度マイクロスコープを用いてゴムの形状(メニスカス形状やゴム柱の大きさ・形状等)のリアルタイム観察と剥離力の同時測定を行う。剥離させる前の接触時間、ゴムの膜厚、剥離速度など変化させて、より粘着剤の使用環境を踏まえた測定を行うことにより、これらの因子の影響を検討する。これにより、今まで得られたゴムの表面特性および粘弾性等との関連を探る。そして、粘着現象、特に「べたつき」の発生原因について考察を行う。 前年度に行う予定であったができなかったタッキファイヤと呼ばれる粘着付与剤の効果について検討を行う。タッキファイヤをゴムに加えて「べたつき」を調整し、より実際の粘着剤に近い材料を作製し、メニスカス形成や沈降挙動がどのように変化するかを調べて、タッキファイヤの影響を探る。そして、原子間力顕微鏡を用いてタッキファイヤ添加ゴムの表面における構造(タッキファイヤの表面偏析、相分離等)や赤外分光測定等による表面偏析量を観察し、粘着に関連する物性との関係を考察する。これらを基に、粘着という性質におけるタッキファイヤの役割を探り、「タック」発生機構とそれにかかわる因子の解明を目指し、研究の推進につなげる。
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