研究課題/領域番号 |
21H01901
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 名古屋大学 (2022-2023) 東北大学 (2021) |
研究代表者 |
井口 弘章 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30709100)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2021年度: 11,570千円 (直接経費: 8,900千円、間接経費: 2,670千円)
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キーワード | 多孔性配位高分子(MOF) / 分子性導体 / 一次元電子系 / 電気伝導 / ホストーゲスト相互作用 / ナフタレンジイミド / 化学ドーピング / 多孔性配位高分子 / ホスト-ゲスト相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
新奇な電子状態の発見は、新しい機能の発現、さらには新たな学問分野の開拓や産業的応用につながることから、電子状態を制御する新たな手法の開発は非常に重要である。本研究では、有機結晶における新しい電子状態開拓法として分子の吸脱着を適用する。そのために、既存の分子性導体と多孔性配位高分子(MOF)の長所を併せ持つ多孔性分子導体(PMC)を開発し、分子の吸脱着に柔軟に応答して構造が可逆的に変化する結晶を合成する。この骨格の構造変化によるバンド構造制御、ナノ細孔に吸着した分子との電荷移動によるバンドフィリング制御を駆使して新奇な電子状態を探索する。
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研究実績の概要 |
本研究では、有機結晶における新しい電子状態開拓法として分子の吸脱着を適用することを目指して、分子性導体と多孔性配位高分子(MOF)を融合した多孔性分子導体(PMC)の開発を行っている。本年度はこれまで取り組んできた「①骨格構造の次元性制御によるPMCの柔軟性の制御」に加えて、「②分子吸脱着によるPMCのバンド構造・バンドフィリング制御にも取り組んだ。 ①については新たに三回対称性を有するベンゼントリイミド(BTI)骨格に着目した。このBTI骨格を有する配位子及びPMCの合成を進めるにあたり、その導電特性の参考とするために、N-メチル化されたイミド基をもつBTI (BTI-Me)分子を用いて複数の電荷移動錯体を合成した。電気伝導度測定や分子軌道計算から、コバルトセニウムイオンを対カチオンに有する錯体は電荷秩序絶縁体であることが明らかとなった。一方、テトラメチルアンモニウムイオンを対カチオンに有する錯体はダイマーモット絶縁体であり、冷却していくと130 Kで構造相転移を起こして反強磁性的なスピン状態から強磁性的なスピン状態に転移する大変珍しい物質であることを見出した。これらの錯体における分子間のトランスファー積分は400 meVを超えるものあり、大きなバンド幅の形成が期待できる点で分子性導体としての高いポテンシャルを有していることを明らかにした。 ②についてはこれまでに合成してきたPMCが加熱により劣化しやすいことから、ナノ細孔中の高沸点溶媒を低沸点溶媒に交換し、ハロゲンガスやコバルトセンなどの酸化還元剤を用いたドーピングに取り掛かっている。しかし、酸化還元反応による構造変化や結晶性の劣化が見られることが多く、より堅牢なPMCを開発することが課題となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画した通り、ナフタレンジイミド (NDI)、ペリレンジイミド (PDI)、インドロカルバゾール (ICZ)、ベンゼントリイミド(BTI)を骨格として様々な電荷移動錯体や配位子の合成が進んでいる。配位高分子骨格についても、すでに論文として報告したゼロ次元(メタラマクロサイクル)や一次元のものに加えて二次元及び三次元骨格を有するPMCが得られてきている。特に三次元骨格を有するものはナノ細孔中の高沸点溶媒を低沸点溶媒に交換することで結晶性を維持したままナノ細孔中の溶媒を脱着可能であることが明らかとなった。このように高い堅牢性を有するPMCの開発が進んできており、今後の分子吸脱着による物性制御が大いに期待できる。 また、BTI骨格を有する電荷移動錯体に関する研究の過程で、イミド窒素の置換基を嵩高くすることであえて分子間の積層を起こさず、πラジカルを孤立させるという新しい研究の展開も見えてきている。この物質ではスピン間の相互作用が非常に小さいため、単分子磁石でみられるような遅い磁化緩和現象が観測された。スピンの緩和時間が長いことは量子ビットとしての応用可能性があることを意味しており、実際にパルスESR測定からスピン状態を一定時間保持できることを確かめた。これは将来的に有機πラジカル系を量子ビットとして用いるための基礎的な知見になるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で配位子の多様性が大幅に増大してきているので、最終年度はこれらを用いてPMC合成をさらに加速し、特に分子吸脱着に対して安定な三次元骨格を有するPMCを中心に開発していく予定である。これまでの研究から、特にピラゾイル基やトリアゾイル基を用いると、金属イオンとハロゲン化物イオンからなるジグザグ鎖が柱となった三次元骨格が得られることがわかってきており、π共役骨格にこれらの置換基を積極的に導入していきたい。 堅牢な骨格を有するPMCが得られてきているので、酸化還元活性な分子をナノ細孔中に導入することにより化学ドーピングを行う。特に、分子の大きさや形、反応時間によりバンドフィリングの精密な制御を行う。また、一旦吸着された分子を取り除くことでバンドフィリング制御の可逆性についても実証したい。上記の化学的な酸化還元を用いるだけでなく、共同研究により電気化学的にイオンを脱挿入するドーピングにも取り組む予定である。 さらに、PMCが既存の導電性MOF以上に高い結晶性と設計性を有することを利用し、選択的に分子を吸着し、その後にCO2還元などの電気化学反応を進めることで、分子選択的電極としての機能評価も行う。また、PMCを用いた高感度かつ室温動作する省エネルギーな分子センサーの実現を目指して、マイクロデバイスの作製に取り掛かる。
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