研究課題
基盤研究(B)
紋枯病は糸状菌Rhizoctonia solaniが引き起こす植物病害であり、イネやトウモロコシなどに重大な被害を及ぼす。病害防除には原因菌の感染生理の理解が不可欠だが、本菌の研究は進んでいない。従来、紋枯病菌は宿主細胞を殺して栄養を摂取すると考えられてきたが、我々はこれまでの研究により、紋枯病菌がその感染初期に生きた宿主から栄養を摂取する活物寄生というステージを経るという状況証拠を得た。そこで本研究では、紋枯病菌が宿主を殺す前に宿主内に侵入していること、宿主免疫を撹乱するためのエフェクターと呼ばれる分泌タンパク質を使用していること、を明らかにすることで本菌の真の感染機構の解明を目指す。
本研究では実験植物であるミナトカモジグサと紋枯病菌を利用し、本菌の感染生理の解明を目指している。激しい壊死を誘発する本菌は、宿主を殺して栄養を摂取する殺生菌に分類されてきた。しかし、我々は植物ホルモンであるサリチル酸が、本菌への抵抗性を誘導することを明らかにした。また、ミナトカモジグサには紋枯病に抵抗性の系統が存在し、それがサリチル酸誘導性免疫に依存することを明らかにした。この結果から、本菌は生きた宿主細胞に感染して栄養を摂取する感染初期に活物寄生段階を経ていると推測した。感染初期の菌糸の観察に向け、蛍光試薬で菌糸と植物組織を染め分ける条件を確立した。共焦点顕微鏡での観察により、既報の通り感染後期には感染座が形成され、その直下からの組織内に菌糸が侵入する様子が観察された。一方、感染初期には、菌糸先端が気孔から部分的に葉内に侵入している様子を捉えた。これが、壊死を伴う感染爆発に向けた感染座を形成するために必要な活物寄生段階だと考えた。本菌は小型で分泌型のエフェクター様タンパク質を多数保有しており、我々もそれらが感染初期に発現誘導されることを明らかにしてきた。中国の研究グループとの国際共同研究により、糖転移活性ドメインを有するRsIA_GTについて機能解析を行った。RsIA_GTは、タンパク質をイネ葉に注入すると壊死を誘導し、感染後期への寄与が示された。また、ベンサミアナタバコに一過的に発現させると、エリシター誘導性の細胞死を抑制する活性が検出され、おそらく感染前期に必要となる免疫抑制能を有することが明らかになった。これは感染行動の観察結果とも一致するものであった。また、今後の植物側解析に向け、ミナトカモジグサのパターン誘導性免疫に関わる遺伝子の時系列発現解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
感染過程における菌糸の挙動の観察に成功し、活物寄生段階と考えられる感染行動を捉えることができた。また、本菌が植物の免疫抑制能を有するエフェクターを持つことを明らかにできた。これらの結果から、当初予測した「本菌が活物寄生段階を経る」という仮説を証明できつつあるため。
今後は菌糸を気孔に部分的に挿入するという感染行動の意義について、実験的に証明する。具体的には、まず本行動の頻度や時系列での推移の詳細について明らかにする。また、例えばアブシジン酸などを使って気孔を閉じさせた場合に、感染の推移がどのように変化するかを調査する。さらに、ミナトカモジグサの紋枯病抵抗性系統と罹病性系統の間での菌糸の感染行動の違いを検証する。また、エフェクターについては、ミトコンドリアCox11の部分配列がエフェクターとして機能するRsIA_CtaG/Cox11およびMALF8について機能解析を行う。MALF8は5つのホモログが存在しており、少なくともミナトカモジグサでの感染過程では3つの遺伝子が発現誘導される。このようなエフェクターの病原性への関与を調べるには、複数遺伝子を同時に機能抑制する必要があるため、Spray-induced gene silencing法が使えるか否かについても検証しながら研究を進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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