研究課題/領域番号 |
21H02501
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
笠原 博幸 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00342767)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2021年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
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キーワード | オーキシン / 植物ホルモン / 生合成 / 代謝 / 生体防御 / フェニル酢酸 / スベリン / アブシシン酸 / 成長制御 / 生体防御機構 / インドール酢酸 |
研究開始時の研究の概要 |
オーキシンは植物の成長や分化、環境応答の制御に関わる重要な植物ホルモンである。最近我々は、非極性移動型オーキシンのフェニル酢酸(PAA)をシロイヌナズナに処理すると、スベリン層の形成を促進したり、生体防御関連遺伝子の発現を誘導したりすることを見出した。これによりPAAが生体防御の調節に関与していることが示唆された。これを検証するにはPAA欠損変異体の解析が重要であるが、まだこの欠損変異体は得られていない。本研究では、シロイヌナズナのPAA生合成遺伝子を同定し、その欠損変異体のスベリン層やその形成に関連する遺伝子を調べることなどにより、PAAの生体防御における役割を明らかにする。
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研究実績の概要 |
オーキシンは植物の成長や分化、環境応答の制御に関わる非常に重要な植物ホルモンである。本研究では、シロイヌナズナにおいてオーキシンの一種であるフェニル酢酸(PAA)の生合成遺伝子を同定し、その欠損変異体のスベリン層やその形成に関連する遺伝子を調べることなどにより、PAAの生体防御における役割の解明を目的としている。 今年度は、1)シロイヌナズナのPAA生合成遺伝子の同定を目的として、候補遺伝子であるアルデヒドオキシダーゼ(AAO)ファミリーの機能解析と多重欠損変異体の作出、2)PAA量を減少させた変異体を作成することを目的として、ペニシリウム属菌の一種であるPenicillium chrysogenumのPAA代謝酵素pahAの遺伝子をシロイヌナズナで過剰発現させる実験、3)上記の実験で得られたaao多重変異体やpahA過剰発現体を使ってスベリンの分析やその形成に関連する遺伝子の解析を進めた。 1)について、aao多重欠損変異体のPAA定量分析を行い、aao四重欠損変異体でPAAおよびその代謝物の量が大幅に減少することを明らかにした。また、この変異体では植物ホルモンのアブシシン酸(ABA)の量も顕著に減少していた。よって、AAOファミリーはPAAとABAの両方の生合成に関与することが強く示唆された。また、AAO遺伝子過剰発現体のPAA代謝物分析の結果から、同酵素がPAA生合成の律速段階ではない可能性も示唆された。 2)については、P. chrysogenumのpahAとP450レダクターゼをそれぞれ過剰発現したシロイヌナズナ系統を確立した。さらに、pahAが生成するPAA代謝物のLC-MS/MS分析法を確立した。 3)については、aao多重欠損変異体のスベリン量の分析を行い、aao四重欠損変異体でスベリン量が有意に減少するという実験結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、AAOファミリーの多重欠損変異体の作出とそのPAA代謝物の定量分析を完了した。また、当初はAAOがPAA生合成の律速酵素と予想していたが、AAO遺伝子過剰発現体の解析から、この酵素の上流にPAA量を調節する別の律速酵素が存在する可能性が新たに分かった。PAAとABAという2つの植物ホルモンがAAOで合成されていることが明らかになったことから、aao欠損変異体を使った実験ではABAの影響が含まれるため、スベリン層の制御に関わるPAAの役割のみを調べることは難しいことが判明した。従って、PAAとスベリン層合成の関係性を調べるには、AAOの上流でPAA生合成のみを制御する酵素の同定が重要であると考えられる。 P. chrysogenumのpahAとP450レダクターゼの遺伝子をそれぞれシロイヌナズナで過剰発現させた植物体も順調にホモ系統を作成することができた。次年度、これらを交配させて共発現体を作成し、その中でPAA量を減少させることができるか調べる準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、以下の3つの実験を進める予定である。 1)前年度までの実験により、シロイヌナズナにおいてAAOがPAA生合成の最終段階を触媒する酵素であることが強く示唆された。よって、シロイヌナズナにおいてAAOはフェニルアセトアルデヒド(PAAld)からPAAを生成すると考えられる。一方、AAOがPAA量を調節する律速酵素でないことも示唆された。これまでの先行研究の結果などから、植物ではアミノ酸の一種であるフェニルアラニンからPAAldを合成する酵素として芳香族アルデヒド合成酵素(AAS)が知られている。そこで、シロイヌナズナのAAS遺伝子の欠損変異体をT-DNA挿入系統の選抜やCRISPR/Cas9法により作成し、aas欠損変異体においてPAA量が減少するか調べる。また、AAS過剰発現体もシロイヌナズナで作成し、PAA量への影響を分析することにより、この酵素がPAAの律速酵素であるか調べる。 2)これまでに、P. chrysogenumのpahAとP450レダクターゼをそれぞれ過剰発現したシロイヌナズナ系統を確立した。最終年度は、これらの系統を交配して共発現体系統を確立し、その植物体においてPAA量が減少するかどうか、また表現型を詳しく解析する。 3)AASの欠損変異体および過剰発現体の系統を確立し、それらの植物のスベリン量を測定する。また、pahA-P450レダクターゼ共発現体のスベリン量やPAA量も分析を行い、PAAによるスベリン層合成の関係性について検討する。
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