研究課題/領域番号 |
21H02505
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
青山 卓史 京都大学, 化学研究所, 教授 (80202498)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
15,730千円 (直接経費: 12,100千円、間接経費: 3,630千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2021年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
|
キーワード | 脂質シグナル / 細胞形態形成 / 細胞極性 / PI(4,5)P2 / PIP5K / 膜脂質シグナル |
研究開始時の研究の概要 |
植物細胞の形態は個々の細胞機能を構造面から支えるだけでなく、組織や器官の形態の決定要因ともなる。細胞壁で囲まれた植物細胞では、形態形成過程は不可逆的に進行すること から、その制御は常に厳密に行われる必要がある。そのような植物細胞の形態形成過程において、生体膜上で位置情報をもつシグナル分子として機能するホスホイノシチドは特に重要 な役割を果たすと考えられる。本研究では、細胞膜上の主要なリン脂質シグナルであるPI(4,5)P2に焦点を当て、根毛、花粉などを対象に、シロイヌナズナにおける遺伝学の利点を最大限に活用し、細胞形態形成における制御分子機構を解明する。
|
研究実績の概要 |
PIP5K1-3遺伝子プロモーターの組織化学的解析が行われた結果、PIP5K1とPIP5K2は植物体全体の維管束および増殖組織において、PIP5K2とPIP5K3は根毛細胞において発現するが、PIP5K1とPIP5K3には発現組織に共通性がないことが示された。これら遺伝子の機能欠損変異体の表現型が解析された結果、PIP5K1とPIP5K2が植物体全体の成長に関与し、PIP5K2とPIP5K3が根毛伸長に関与することが示された。 PIP5K1とPIP5K3のタンパク質機能の違いが解析された。PIP5K3プロモーターを用いて異所的に発現したPIP5K1がpip5k3の短い根毛の表現型を完全に回復させたのに対し、PIP5K1プロモーターを用いて異所的に発現させたPIP5K3はpip5k1の軽度の成長遅延の表現型を回復できたが、pip5k1pip5k2二重変異体の顕著な矮性の表現型を部分的にしか回復できなかった。 被子植物のBタイプPIP5Kの分子系統樹解析およびアミノ酸配列のアライメント解析が行われた。その結果、PIP5K3オルソログはいくつかの植物種で失われていること、PIP5K3オルソログの配列はPIP5K1/2オルソログのものと比較して保存性が低いことが示された。 以上の知見により、PIP5K1-3遺伝子の機能はプロモーターに依存する発現パターンにおいて分化するとともに、それらがコードするタンパク質の機能においても分化していることが明らかにされた。また、PIP5K3が根毛伸長に機能を特化させた結果、PIP5K1/2に保存されている分子機能の一部を失ったことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナはBタイプPIP5K遺伝子を9つもち、それらはタンパク質の配列類似性によりPIP5K1-3、PIP5K4-6、PIP5K7-9のサブグループに分類される。先行研究では、PIP5K4-6、PIP5K7-9についてはそれぞれに共通の役割をもつことが報告されているが、PIP5K1-3に共通する役割は報告されていなかった。今回、PIP5K1、PIP5K2およびPIP5K3の機能分化に関する解析が行われ、それぞれのプロモーターに依存する発現パターンの違いに基づく機能分化とそれぞれがコードするタンパク質の分子機能における機能分化の両方が存在することが明らかにされた。これらの結果は、高等植物におけるホスホイノシチドシグナルの細胞生物学的機能の解明を大きく進展させるものであり、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
根毛に関してはPIP5K2、PIP5K3および植物のRho-type GTPaseの一つであるROP2が 、花粉に関してはPIP5K4、PIP5K5、PIP5K6およびROP1が尖頂なシグナルピークをもたらすためのフィードフォワードループの構成因子であることが想定されているので、その検証を行うことを中心として進める。 PIP5K遺伝子の多重変異体をスクリーニングした結果、根毛が形成されないpip5k2pip5k3pip5k6三重変異体が得られている。この三重変異体を用いてROP2の動態を観察するなどの解析を進め、根毛形成予定位置の平面内極性確立においてPIP5K、ROP2以外のタンパク質因子は必要か、PI(4,5)P2は どのようなタンパク質因子を細胞膜上にリクルートするのか、解析を行う 。 pip5k4pip5k5pip5k6三重変異をもつ花粉は発芽条件下において花粉壁が開裂し、内容積が増加するものの花粉管となる突起状の構造は形成されない。この三重変異花粉系を用い、ROP1などの動態を観察し、花粉の発芽においてもPIP5K、ROP1以外のタンパク質因子は必要か、PI(4,5)P2はどのようなタ ンパク質因子を細胞膜上にリクルートするのか、解析を行う 。 気孔孔辺細胞に関しては、表現型スクリーニ ング系を用いて細胞形態形成に表現型をもつPIP5Kの多重変異体を同定し、その後それらのPIP5Kがどのような制御因子と相互作用するのかなどの解析を行う。 以上の解析結果をまとめて植物細胞の極性確立機構を明らかにする。
|