研究課題/領域番号 |
21H02556
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千葉 聡 東北大学, 東北アジア研究センター, 教授 (10236812)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2022年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2021年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
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キーワード | 進化 / 陸貝 / 変異 / 種分化 / 多様性 / 種形成 / 生殖的隔離 / 非対称性 / 巻き方 / 多型 |
研究開始時の研究の概要 |
生物の非対称な形が左右反転すると何が起きるか。鏡像体はなぜ進化するのか。本研究は殻の左巻き・右巻きの鏡像変異をもつ陸生巻貝Euhadra属をモデルとしてこの謎に挑む。従来巻貝で知られる巻き方向決定遺伝子は、疾患として生じる左巻きについてであり、正常な左巻き・右巻きの違いを決める遺伝子とその進化過程は未知である。左巻き・右巻き集団の種分化機構も不明である。本研究では、ゲノム解析と交配実験により巻き方向を決める遺伝子を推定する。系統推定と交配実験から、鏡像変異間に段階的に生殖的隔離が進化する、という仮説を検証する。以上より巻き方における左右反転の進化過程を、ミクロ・マクロのレベルで理解する。
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研究実績の概要 |
東北地方から関東地方にかけての左巻き種であるヒダリマキマイマイと右巻きのアオモリマイマイなどの種の網羅的な採集を行った。また韓国など大陸の左巻き種も採集した。これらの分子系統推定をRAD-seq、Mig-seqを用いて行い、集団内、集団間の遺伝的交流の状態について明らかにした。その結果、ヒダリマキマイマイは系統のかなり異なる右巻き種とも交尾が可能であることがわかった。またこうした系統の比較的遠い巻き方向の異なる種との間で、歴史的な交雑が起きてきた可能性も示唆された。このことから、従来の平巻き種における巻き方向の違いによる、完全な生殖的隔離の成立については、少なくともマイマイ属においては可能性が低いことが示された。これら巻き方向の違う個体の交尾は、一方向的である場合が多く、部分的に遺伝子流動が起きる場合が多いと考えられる。またこれらの交尾は、それを生じた集団の生殖器形態の特徴などから、柔軟な交尾行動とそれを可能にする生殖器形態によるものである可能性が示唆された。東北地方のヒダリマキマイマイとアオモリマイマイの集団間の関係と巻き方向タイプ間の関係を集団遺伝学的に解析した結果、地域により遺伝的交流がある一方、地域により交雑が起きておらず、複数の要因による生殖的隔離の成立の考えが支持された。現時点ではまだそのメカニズムは明らかではないが、巻き方向の違いも一定の生殖的隔離の形成に貢献していると考えられた。東北地方で共存し、互いに交配しているヒダリマキマイマイとアオモリマイマイの個体についてゲノム抽出を行い、塩基配列を決定し、アノテーションを行った。これらの種のゲノムのいくつかの困難な点により、昨年度には作業が完了しなかったが、本年度の早い段階で完了する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時の新型コロナ流行による実験室使用の制限と、野外調査による試料採集の制限のために、実験に使用していた飼育個体の死亡や、いくつかの予定されていた遺伝子解析の作業、さらに必要な試料の確保に遅れが生じるなどの問題が起きていたが、ようやく一定レベルの野外調査が可能になり、入手予定となっていた試料を確保することができた。またそれらを利用して、予定されていた遺伝子解析を行うことができた。またたとえば大陸地域のように当初は想定していなかった地域の試料を得ることができ、それを使った遺伝子解析と系統推定により、想定していなかった結果を得ることができた。地域ごとの右巻き、左巻き間の遺伝子流動の状態についての解析は、予定以上に広い地域で細かく調査することができ、想定以上にその状態に大きな地域差があることがわかった。また右巻き、左巻き間でランダム交配していると思われた地域集団でも、より詳細な解析により、ある程度の遺伝子流動に対する制限があることがわかった。そのため当初の計画を変更し、この制限を引き起こしている生態学的、生理学的ななメカニズムを、より詳細に調べている。以上のように想定していなかった知見や問題が見いだされるなど、研究は十分進展していると言える。一方、ゲノム解析による遺伝子探索については、代表者の実験室のみならず、英国の研究協力者の実験室の使用制限があったため遅れていたが、昨年度はおおむねこれがなくなったことから、作業を急ピッチで進めている。ヒダリマキマイマイのゲノム構造に処理が困難な性質があり、やや解析作業の進行が遅れた。そのため昨年度は、交配実験と野外集団の遺伝子解析による研究により時間を割くことになったが、この点をのぞけば概ね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
左巻き種のヒダリマキマイマイと右巻きのアオモリマイマイなどの種において、網羅的な遺伝子解析の結果明らかになった、集団ごとの右巻き、左巻き間の遺伝的交流の状態や、集団の遺伝的構造など、昨年度の成果については、現在論文としてまとめて執筆中であり、まもなく国際誌に投稿の予定となっている。またそれとともに行った各地域の集団の生殖器形態の研究と交尾行動の研究についても、現在得られた成果を取りまとめているところであり、本年度中に論文としてとりまとめる予定である。ゲノム解析については、想定していなかった幾つかの問題があり、その解決に時間を要していたが、問題点がおおむね判明したことから、今年度には進められる予定であり、現在は英国の研究協力者と緊密に連携をとりつつ、解析の作業を進めている。今年度はこれらの成果を可能な限り総合して、巻き方向の変化が起きたタイミングやその進化の歴史を推定する予定である。これまでの研究で、巻き方向の変化は独立に起きたことが推定されており、交尾行動や生殖器形態による二次的な生殖的隔離の強化の可能性を調べる予定である。また集団間の交雑や遺伝的交流のパターンの違いから、巻き方向の変化に関係して種分化がどのように進んだかを明らかにする予定である。こうして得られた知見をとりまとめることにより、本研究で対象としたマイマイ属において巻き方向の変化が、種や遺伝的な多様性、形態や行動の多様性の形成と、どのように関係してきたかを明らかにする予定である。
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