研究課題/領域番号 |
21H02586
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
久保 郁 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 准教授 (40786373)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2021年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
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キーワード | 視覚 / 神経回路 / ゼブラフィッシュ / 光遺伝学 / オプティックフロー / 前視蓋 / ハブ / ANTs / DMD / 視覚情報処理 / 神経回路ネットワーク |
研究開始時の研究の概要 |
我々ヒトを含む動物は、自己運動により生み出される視野全体の像の動きであるオプティックフローを視覚的に捉えることにより、姿勢や進行方向を適切に調節している。オプティックフロー情報は、視覚や運動に関連する脳領域を広く活性化する。しかし、どのようにして、オプティックフロー情報が脳の広範囲に渡って伝播されるのかは分かっていない。本研究では、前視蓋クラスター細胞がハブとして働くという仮説の元、前視蓋クラスター細胞群を特異的に標識する新規系統を用いることで機能的および解剖学的な神経接続の様式を明らかにし、オプティックフロー情報処理において広範な神経ネットワークが駆動されるメカニズムを解明する。
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研究実績の概要 |
第一に、前視蓋クラスターに存在する神経細胞がオプティックフロー依存的な行動を引き起こすハブとして働くかどうかを明らかにするために、前視蓋クラスターを標識する新規Gal4系統を用いて光遺伝学的に局所的に活性化させる実験系の構築を行なった。長波長シフトした光遺伝学アクチュエータであるChrimsonやChRmineを活性化する目的で光源を選定した上で、Digital Micromirror Device (DMD)システムを導入した。予備実験として、Chrimsonを運動神経で発現するゼブラフィッシュ仔魚(vachta:Gal4, UAS:Chrimson)を用いて動眼神経核を光刺激したところ、眼球運動が観察されたことから、この系を用いて神経活動活性化を引き起こすことができることが確認できた。
第二に、前視蓋クラスター神経細胞が、脳内においてどのような神経配線を展開することでオプティックフロー情報処理のハブとして機能しているかを明らかにするために、前視蓋クラスターGal4系統で標識される細胞の神経投射パターンの解析を行なった。具体的には、前視蓋クラスターの単一神経細胞を赤色蛍光タンパク質で可視化し、その神経投射パターンを解析すると同時に、共発現させたGCaMPによってオプティックフロー刺激に対する反応性を解析した。これまでに異なるオプティックフロー反応性を示す細胞はそれぞれ異なる神経投射を持つことが分かった。さらに、異なる個体から得られた神経投射パターンを同一座標上で比較するために、画像レジストレーション技術ANTsを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに光刺激装置のセットアップを完了し、これを用いて神経細胞の光遺伝学的な活性化に成功しており、当初の計画通り順調に進展していると言える。次年度は、この光刺激装置を用いて、前視蓋クラスター細胞の光遺伝学活性化を行うことにより、これらの細胞がオプティックフロー依存的な行動に関与するかどうか調べる予定である。解剖学的アプローチにおいては、単一細胞を標識する手法の構築およびデータ取得をほぼ完了することができた。さらに、異なる個体から得られた神経投射データを共通の座標軸上にレジストレーションする技術も確立することができた。これらの解析の結果、前視蓋クラスター細胞群には、オプティックフローに対する反応性が異なるサブタイプが存在し、それらは局所的に神経投射していることが分かった。したがって、異なるサブタイプは互いに神経接続している可能性が示唆され、この結果はオプティックフロー情報処理に関する新たな知見を生み出したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに構築した光刺激装置を用いて、前視蓋クラスター細胞の光遺伝学的活性化の実験を進める。第一に、前視蓋クラスター細胞の活性化により、オプティックフロー依存的な行動が惹起されるか解析する。第二に、光活性化とカルシウムイメージングを組み合わせるall-opticalアプローチを確立し、前視蓋クラスター細胞の活性化により、全脳の神経細胞がどのように活性化するのか解析する。 解剖学的解析については、これまでに取得した単一細胞の神経投射パターンのデータを論文としてまとめる。さらに、この解析から明らかになった「相互神経接続」に関するモデルを検証する。そのために、光刺激装置を用いて、2つの細胞群のうち一方のみの細胞群の神経活動を活性化させた際、他方の細胞群が活性化(あるいは抑制)されるかを調べる。
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