研究課題
基盤研究(B)
世界のエイズ死因第2位のクリプトコックス髄膜炎は、潜伏感染後に再活性化することで発症するとの認識に変わりつつある。しかし、その詳細については未だ不明であり、適切な動物モデルを用いた研究が求められている。我々は、本真菌の主要なT細胞抗原を特異的に認識する受容体を高発現するトランスジェニックマウスを樹立し、本マウスを用いた潜伏感染・再活性化発症モデルの作製に成功している。本研究では、このモデルを用いることで、クリプトコックスの潜伏感染及び再活性化発症について解析し、その免疫機序を明らかにする。
これまでに、クリプトコックス抗原特異的T細胞受容体を発現するトランスジェニックマウス(CnT-II)を用いて作製した潜在性感染(LCNI: latent C. neoformans infection)モデルに免疫抑制剤を投与することでクリプトコックス症の内因性再燃発症を再現することを試みてきた。昨年度の研究により、我々のLCNIモデルに新規免疫抑制剤Fingolimodo(FTY720)を投与することで肺内のTh1免疫応答が抑制されるとともに、潜伏感染真菌が内因性再燃することを見出しており、本年度はその免疫機序の解明を試みた。LCNIから内因性再燃に至る過程で、肺内のメモリーT細胞が減少するとともに、その後遅れてエフェクターT細胞が減少する結果が得られた。併せて、結核感染モデルで肉芽腫の形成・維持に重要なことが報告されているケモカインMCP-1の産生が、内因性再燃に伴い有意に低下する結果も得られた。in vitroの実験では、CnT-IIマウスの脾臓から精製したナイーブT細胞を抗CD3抗体で刺激し、Th1分化メディウムとともに培養することで誘導したエフェクターT細胞をフローサイトメトリーで解析する系にリン酸化FTY720(FTY720p)を添加したところ、明らかなTh1細胞分化への影響は認められなかった。これは、昨年度に得られた、ナイーブT細胞と樹状細胞の抗原刺激によるIFN-γ産生がFTY720p添加によって低下した結果とは一致しなかった。現時点ではその理由については明らかではない。本年度に得られた結果から、FTY720投与によりMCP-1産生を含む肉芽腫の維持機構が破綻することで潜在性感染から内因性再燃に移行する可能性が示唆された。さらに、メモリーT細胞による潜在性感染の維持機構が破綻するとともに、再活性化した真菌抗原による新たなTh1細胞の所属リンパ節から感染局所への遊走が抑制されることでエフェクターT細胞の減少が起こり、これらが内因性再燃に寄与する可能性も示唆された。
2: おおむね順調に進展している
クリプトコックス抗原特異的T細胞受容体を発現するトランスジェニックマウスを用いることで潜在性感染から内因性再燃に至る動物モデルの作製に成功した。特に、臨床でも問題となっている新規免疫抑制剤を用いた内因性再燃モデルを用いることで、メモリーT細胞及びエフェクターT細胞への影響、肉芽腫の形成維持に重要なケモカイン産生への影響について興味深い結果が得られつつある。
令和4年度に得られた知見をもとに、クリプトコックス潜在性感染から内因性再燃に至る過程における肉芽腫の維持・崩壊と、メモリーT細胞及びエフェクターT細胞の機能的動態及びその制御機構の破綻、その他の免疫細胞との関連性についてさらに詳細な解析を実施することで、本感染症の内因性再燃発症の免疫病態の解明へつなげる。
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