研究課題/領域番号 |
21H02996
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
海野 倫明 東北大学, 医学系研究科, 教授 (70282043)
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研究分担者 |
古川 徹 東北大学, 医学系研究科, 教授 (30282122)
青木 修一 東北大学, 大学病院, 助教 (30844451)
阿部 高明 東北大学, 医工学研究科, 教授 (80292209)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2023年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2022年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2021年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
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キーワード | 膵癌 / 胆道癌 / 腸内細菌叢 / メタボローム / 腸内細菌 / メタゲノム解析 / 胆管癌 / 術前化学療法 |
研究開始時の研究の概要 |
膵胆管癌は近年、外科的切除を軸とした集学的治療の進歩により治療成績の向上を認めている。我々が主導した臨床研究では、切除可能膵癌において、術前化学療法が予後を改善することを世界で初めて報告した。その一方で、画一的な術前治療に対し治療抵抗性を示す症例が存在する。本研究では、膵胆管癌の術前治療中の腸内細菌叢のメタゲノム解析を行うことで、腸内細菌叢の変化が抗腫瘍免疫に与える影響を解明する。その成果により、腸内細菌叢のremodeling による抗腫瘍免疫の活性化するという新しい治療法を提案するもので、次世代の癌治療をリードする新規治療戦略を提唱するものである。
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研究実績の概要 |
次世代シーケンサーによる細菌叢解析技術の進歩により、腸内細菌叢と疾患の関連性を示す報告が急速に増加している。大腸癌ではFusobacteriumなどの細菌が直接発癌に関与すると報告され、新規バイオマーカーや新規治療薬の開発が期待されている。膵癌においても、口腔内や腸内の特定の細菌叢との関連が近年報告されているが、直接的に発癌と関わる菌株の同定には至っていない。一方で、腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)に伴う代謝異常が膵癌の発癌に関わっていることが示唆され、dysbiosisによる腫瘍内免疫環境の変化が化学療法耐性に関わっていることが明らかにされている。 本研究の目的は膵胆道癌の腸内細菌叢を解析することで、①腸内細菌叢の新規バイオマーカーとしての有用性を示し、②腸内細菌叢の変化が腫瘍内微小環境に与える影響を解明することである。菌叢解析には、16S ribosomal DNA解析(16SrDNA解析)による網羅的菌叢解析だけでなく、便の代謝産物や酵素活性などの多元的なネットワークの解明が必要であり、慶應大学生体生命研の福田真嗣博士との共同研究により、メタボローム解析を含めたマルチオミックス解析を施行した。 本研究では、これまで膵胆道疾患癌約80例の糞便を収集し、現在オミックス解析中である。これまで膵癌・胆管癌の16S ribosomal DNA解析による網羅的菌叢解析が終了し、非癌患者100名の菌叢と比べ、膵癌患者及び胆管癌患者に特徴的な菌叢構成を明らかにした。また、化学療法を施行した膵癌患者のうち、化学療法が奏功した症例と耐性であった症例を層別化し、両群で腸内細菌叢を比較すると、奏功及び耐性に関連する特徴的な菌株を同定できた。これらは、膵胆道癌患者の新たなバイオマーカーとしての有用性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで膵癌38例、胆道癌29例を含む約80例の糞便を集積し、メタゲノム及びメタボローム解析を施行している。そのうち、膵癌38例、胆道癌16例の16SrDNAによる菌叢解析の結果が示された。対象患者の年齢中央値は膵癌72(44-86)歳、胆道癌71(57-88)歳、病期は膵癌(StageI/II/III/IV:14/6/7/11例)、胆管癌(StageI/II/III/IV:5/6/4/1例)であり、治療は膵癌が手術治療/化学療法治療(20/18例)、胆管癌が手術治療/化学療法治療(10/6例)であった。同年代の非癌患者100名の菌叢解析をコントロールとし、菌叢構成割合及び菌叢多様性を比較検討した。菌叢構成において、膵癌および胆道癌患者は非癌患者に比べ、菌株Aが有意に少なく(膵癌p<0.001, 胆道癌p=0.025)、菌株Bが有意に多かった(p<0.001, p=0.001)。菌叢の不均一性の指標であるShannon indexを用いた解析では膵癌及び胆道癌は非癌患者に比べ有意に低く(p<0.001, p<0.001)、多様性の低下を示した。菌株数の指標であるChao1解析では、膵癌は非癌患者に比べ有意に菌株数が低く(p<0.001)、多様性の低下を示し、胆道癌においても菌株数が低い傾向であった。膵癌35例に対しては化学療法を施行しており、腫瘍マーカーの減少が50%以上認められた膵癌患者をresponder群(R群)、それ以外の膵癌患者をNon-responder群(NR群)と層別し菌叢解析すると、NR群はR群に比べ、ある種の菌株が有意に多かった。以上のように検体は順調に収集されており、当初の研究計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析結果により、膵胆道癌患者では非癌患者に比べて腸内細菌叢の多様性が減少し特定の菌株や代謝産物に変化が生じていることが分かった。しかし、これらの菌種が膵癌発癌の原因となっているのか、もしくはその結果であるのかは不明である。さらに近年、無菌と考えられていた膵癌組織内に細菌叢の存在が明らかとなり、腫瘍内細菌叢と予後や化学療法感受性との関連を示した報告が存在する。また腸管内細菌叢による腫瘍内微小環境の変化を示唆する報告もあり、これら細菌叢が直接発癌には関与しないものの、腫瘍内免疫の賦活化など免疫微小環境を変化させることで、抗癌剤感受性に関与している可能性がある。 今後もメタゲノム及びメタボローム解析を行い、膵胆道癌の発癌や抗癌剤感受性などとの関連を検索し、膵胆道癌治療における新たなバイオマーカーを探索する予定である。さらに、切除症例においては、切除検体のゲノム解析を行うことで、腸内細菌の変化が腫瘍微小免疫環境にどのように関与しているか、または腸内細菌叢が腫瘍内細菌叢の変化にどのように関与しているかを解明する。 特定の菌株や代謝産物を同定できたら、それらによる発癌メカニズムや治療耐性メカニズムをin vivo、 vitroで明らかにする予定である。当科ではすでに膵胆道癌における、spheroid培養、オルガノイド培養の手法を確立しており、今回の解析で判明した特定の菌株や代謝産物を加えることでどのような発癌シグナルが変化するかを明らかにする。または、膵胆道癌のマウス同種同所移植モデルを確立しており、これらの細菌叢を与えることで、腫瘍進展がどのように変化するかを明らかにする予定である。以上により、腸内細菌叢の改変による治療効果耐性の克服を達成し、膵胆道癌の新規治療戦略を提案する。
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