研究課題/領域番号 |
21H03608
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63040:環境影響評価関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
濱 健夫 筑波大学, 生命環境系, 名誉教授 (30156385)
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研究分担者 |
辻村 真貴 筑波大学, 生命環境系, 教授 (10273301)
須田 亙 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 副チームリーダー (20590847)
渡邊 圭司 埼玉県環境科学国際センター, 水環境担当, 専門研究員 (50575230)
大森 裕子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80613497)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2021年度: 10,920千円 (直接経費: 8,400千円、間接経費: 2,520千円)
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キーワード | 抗生物質 / 細菌群集 / 遺伝子解析 / 生活様式 / 物質循環 / 多様性 / 有機物分解 / 細菌群集組成 / 浮遊性細菌 / 付着性細菌 |
研究開始時の研究の概要 |
抗生物質は家畜の飼育、魚介類の養殖などで使用され、環境中にも相当量が流出しているものと予想される。環境中に流出した抗生物質は、生息する細菌の成長や代謝に対して、影響を与える可能性は高い。これにより、有機物の分解や栄養塩類の再生など、生態系における物質の循環において、細菌が果たしている機能も失われることが予想される。 本研究では、地下水、河川、湖沼および河口水域に生息する細菌群集に対する抗生物質の影響を、現場観測と培養実験を通して明らかにする。特に、抗生物質に対する自然細菌群集の脆弱性に関して、ゲノム解析により重点的に評価する。また、水圏環境の物質循環に対する抗生物質の影響を定量的に解析する。
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研究実績の概要 |
細菌自然群集に対する抗生物質の影響を評価するため、河川水(綾瀬川・中の橋)および湖水(霞ヶ浦・行方)を用いた培養実験を実施した。採取した試水に、テトラサイクリンの最終濃度が、0、1 ng/L、100 ng/L、10 ug/L、1 mg/Lおよび10 mg/Lとなるよう添加し、20℃で暗所において9日間培養した。0日、2日および9日後に試料の一部を採取し、試料に含まれる細菌群集を3 um以上の画分に含まれる付着性細菌と、3 um未満の画分の遊離性細菌に分別し、それぞれについてDNAを抽出した。得られた試料を用いて、16s rRNAの塩基配列に基づく群集組成を明らかにした。また、培養中の有機物の分解に対する影響を評価するため、分解速度の高いクロロフィルaの濃度変化を明らかにした。 主座標分析を用いた群集組成の類似性の検討の結果、綾瀬川から得た遊離性細菌では100 ng/L、付着性細菌では1 mg/L以上の濃度のテトラサイクリンにより、群集組成が変化することが明らかになった。一方、霞ヶ浦の試料に関しては、遊離および付着性細菌の群集組成に影響を与える濃度は、それぞれ1 mg/Lおよび10 mg/Lであった。 群集の多様性を示すShannon指数は、テトラサイクリンの濃度に依存して減少する傾向にあった。9日目の試料では、綾瀬川の遊離性細菌群集では100 ng/Lから、付着性群集では1mg/Lから低下が確認された。一方、霞ヶ浦から得た群集では、遊離性および付着性群集共に、10 mg/Lにおいて多様性が低下した。 培養実験中にクロロフィルa濃度は、細菌による分解作用を反映して低下した。低下の割合はテトラサイクリンの添加量により異なり、添加量が増加するに従い、残存量が増加することが認められた。これは、高濃度のテトラサイクリンの添加が、バクテリアの分解活性を抑制していることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の抗生物質の濃度の測定結果に基づき、綾瀬川と霞ヶ浦を対象に抗生物質添加実験を実施した。添加実験では、それぞれの対象水域について、3 Lの培養器を合計18基用いたが、試料の分注、抗生物質として用いるテトラサイクリンの添加、試料の採取および処理は順調に進行した。 群集組成を明らかにする遺伝子解析は、各条件で得られた試料について、研究計画通り、付着性細菌と遊離性細菌それぞれについて実施した。また、再現性確認のため各条件で3系列の培養系を設定したが、本年度は、各試料ともに1系列の倍養について遺伝子解析を実施することとした。 遺伝子解析の結果を基に行った主座標分析から、エリスロマイシンの添加量に依存して、細菌自然群集組成が変化することを明らかにすることができた。また、解析により確認された分類種(OTUs)数および多様性指数から、抗生物質の添加が多様性を低下させることも確認された。さらに、抗生物質の影響は、付着性細菌と遊離性細菌では異なることも示唆された。これらの結果は、細菌自然群集に対する抗生物質の影響を評価するために、本研究で計画、実施した培養実験が、有効であることを示している。 物質循環に対する影響に関しては、細菌により分解されやすいクロロフィルa濃度を用いることに着目した。測定の結果、抗生物質濃度の増加に対応して、細菌の分解活性が低下することを明確に示すことができた。 一方、遺伝子解析を行った試料が各条件で1試料であったため、群集組成の変化等ついての統計的解析には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の培養実験で得られた一部の試料に関する分析結果は、綾瀬川および霞ヶ浦試料を用いた培養実験が、計画通り実施できたことを示している。このため、最終年度の3年次においては、2年次に実施した培養実験で得られた試料の分析を継続し、得られた結果を用いて統計的解析を含めた総合な検討を実施する。 具体的には、培養実験で得られた3系列の培養試料の残り2系列の試料に関して、DNAの抽出とそれを用いた遺伝子解析を実施する。得られた結果を元に、主座標分析、α多様性およびβ多様性の評価行い、自然細菌群集に影響を及ぼすエリスロマイシンの濃度を特定する。また、多様性に関するShanon指数およびChao1指数の変化を統計処理し、多様性の低下とエリスロマイシン濃度との関係を明確にする。さらに、具体的な群集組成変化に関しては、同一条件の3試料から得られた結果を基に、感受性の高い分類群、および低い分類群を、付着性細菌および遊離性細菌のそれぞれについて特定する。 物質循環への影響に関して、更に詳細な情報を得るために、懸濁試料に含まれる炭水化物の分析を新たに実施する。細菌による分解作用に対する抗生物質の影響を評価する。 得られた結果をとりまとめた上で、学会において発表すると共に、論文を投稿、発表するする。
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