研究課題
基盤研究(B)
本研究の目的は、研究代表者が確立したマグノン極性(スピンの歳差運動の回転方向)の測定手法を発展させ、逆スピンホール効果によるスピン流測定と組み合わせることでスピントロニクス研究を運動量・エネルギー分解した微視的視点から切り拓くことにある。主に従来型の強磁性スピントロニクスを対象とし、次世代スピントロニクス機構として反強磁性スピントロニクスと高次スピン自由度スピントロニクスにも着目する。
偏極中性子散乱に係る中性子偏極率の補正について解析的な数式を導出し、Y3Fe5O12を用いて測定したデータに適用することで、完全な補正を実現した。この成果はJ. Phys. Conf. Ser.に出版される。また、4f電子を持つTb3Fe5O12について、偏極中性子非弾性散乱実験をオーストラリアANSTOにて行い、マグノン極性を調べた。その結果、各マグノンモードにおいてマグノン極性が反対方向を向くこと、磁気補償温度を境に反転することを明らかにした。スピンの高次自由度が担うトポロジカル転移について、論文を投稿した。NiGa2S4の偏極中性子散乱の結果から、面内と面直の磁気モーメント成分を分離し、異常温度を境としてその異方性が変化することを突き止めた。このような異常は磁気秩序や他の機構にも例がなく、ベクトルスピンカイラリティ渦によるKosterlitz-Thouless的凝集転移に起因することを明らかにした。類似物質のFeGa2S4では、非弾性中性子散乱実験をチョッパー分光器と後方散乱装置を用いて行い、カイラリティ渦の自由運動と相関する強度の温度変化が理論予想と整合することを突き止めた。反強磁性スピントロニクスについて、モデル物質を対象として単結晶回折実験を行った。誘起弱強磁性ドメインを揃えるため、永久磁石による磁場印加状態で測定を行い、ジャロシンスキー・守谷相互作用の定量解明を行った。さらに、偏極中性子散乱を用いたマグノン極性測定をANSTOにおいて行い、反強磁性体において初めてマグノン極性を明らかにした。バルク物性測定環境の整備として、現有の物性測定装置に新たな試料インサートを作製し、ホール効果、スピン流、誘電率・分極の測定環境を整備した。
2: おおむね順調に進展している
当初研究課題に対して、本研究の遂行はおおむね順調に推移している。
フォノンの群速度によるスピン流寿命の増大が、マグノン・ポーラロン機構として提唱されている。この条件に合致する磁場値においてPx中性子偏極を用いたマグノン極性の(Q, E)走査を行った。今後は現在進行中のデータ解析を完了させる。具体的には、分解能関数畳み込み後の磁気ピーク幅の逆数からマグノン拡散長・寿命の定量評価を行い、磁場の関数としてマグノン寿命の増大を確認する。反強磁性スピントロニクスについて、偏極中性子非弾性散乱実験によるマグノン極性測定を再度行い、結果を確実なものにする。前回の実験では中性子束が不充分であり、中性子偏極の時間変化も問題であった。次回の実験ではこれらを解決した上で精度の高い議論を進める。また、スピン運動量ロッキングのさらなる測定を進める。高次自由度スピントロニクスについて、三角格子反強磁性体NiGa2S4・FeGa2S4においてスピンカイラリティによるトポロジカル転移を明らかにした。並行して、誘電率・でき分極測定、および非局所スピン流測定をNiGa2S4とFeGa2S4を対象に行い、高次自由度による誘起電気分極やスピン流伝搬を実証する。
すべて 2023 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 7件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (52件) (うち国際学会 23件、 招待講演 9件) 備考 (6件)
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