研究課題/領域番号 |
21H04798
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分48:生体の構造と機能およびその関連分野
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
横溝 岳彦 順天堂大学, 大学院医学研究科, 教授 (60302840)
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研究期間 (年度) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
43,160千円 (直接経費: 33,200千円、間接経費: 9,960千円)
2023年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
2022年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
2021年度: 24,960千円 (直接経費: 19,200千円、間接経費: 5,760千円)
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キーワード | 高度不飽和脂肪酸 / アラキドン酸 / ドコサヘキサエン酸 / エイコサペンタエン酸 / デサチュラーゼ / ω3脂肪酸 / ω6脂肪酸 / ステロイドホルモン / 双極性障害 / 不飽和脂肪酸 |
研究開始時の研究の概要 |
分子内に複数の二重結合を有する高度不飽和脂肪酸(PUFA)は動脈硬化の予防や血液の流動性を高める作用が知られ、EPAやDHAがサプリメントとして広く使用されている。しかしながら、多数の分子種が存在するPUFAのそれぞれの分子種の役割は良くわかっていない。本研究では、申請者が確立したPUFA欠乏マウスで観察される貧血、脂肪肝、不妊などの異常が、どのPUFA分子種の投与によって改善するかを観察することで、それぞれのPUFA分子種の生体内での役割をあきらかにする。
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研究実績の概要 |
高度不飽和脂肪酸(PUFA)は、α-リノレン酸やリノール酸などの必須脂肪酸から生合成される、生命現象に必須の分子群であるが、個々のPUFA分子種の詳細な機能や役割は明らかになっていない。本研究では独自に作製したPUFA欠乏マウスで観察される異常(男性不妊、貧血、脂肪肝)に着目し、どのPUFA分子の欠乏がこれらの異常を引き起こしているのかを明らかにし、特定のPUFA分子によるレスキューを試みた。FADS2遺伝子欠損マウスとPUFA除去食飼育により作成したPUFA欠乏マウスは、男性ホルモン産生低下による精子形成異常のため、男性不妊の表現型を呈した。PUFA欠乏ライディッヒ細胞株、PUFA欠乏マウス由来初代培養ライディッヒ細胞を用いたin vitro実験の結果、ω6系列の脂肪酸を含有するコレステロールエステルが、男性ホルモンをはじめとしたステロイドホルモンの前駆物質として重要であり、PUFA欠乏によってライディッヒ細胞内のコレステロールプールが枯渇するために、男性ホルモン産生が低下することが明らかとなった。また、FADS1/2ダブル欠損マウスを樹立した。ヒトGWAS解析において、双極性障害と関連するSNPsがFADS1/2遺伝子座に存在することから、FADS1/2ダブル欠損マウスの行動解析を行ったところ、双極性障害様の行動異常を呈することが分かった。さらにこの行動異常はω3PUFAであるドコサヘキサエン酸(DHA)投与によってレスキューされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪酸不飽和化酵素FADS2の遺伝子欠損マウスを樹立し、PUFA除去食を摂食させることで、PUFA欠乏マウスを作成した。質量分析計を用いた脂質一斉定量系を用いて解析したところ、肝臓や赤血球では、ほとんど全てのPUFA含有リン脂質組成が大きく減少していた。一方で、脳においてはドコサヘキサエン酸含有リン脂質の減少が軽微であった。PUFA欠乏マウスの男性不妊の表現型に関しては、男性ホルモンを産生するライディッヒ細胞でFADS2が高発現していたため、男性ホルモン産生におけるFADS2の役割の解明を試みた。ライディッヒ細胞の細胞株であるMA-10細胞にFADS阻害剤を投与し、血清飢餓を加えることでPUFA欠乏状態を作り出すことに成功した。MA-10細胞をゴナドトロピンで刺激した際のステロイドホルモン産生は、PUFA欠乏状態で大きく減少した。本実験において、様々なPUFA分子種を加えてレスキュー実験を行ったところ、アラキドン酸やドコサペンタエン酸などのω6系列のPUFAを加えることで、ステロイドホルモン産生がレスキューされた。同様の結果を、PUFA欠乏マウスから回収した初代培養ライディッヒ細胞でも得ることができた。さらに、様々なPUFA分子種を含有するコレステロールエステルを合成し、ホルモン感受性リパーゼ発現細胞を用いて、リパーゼの基質特異性を検討したところ、ω6脂肪酸含有コレステロールを好んで加水分解するころが分かった。また、ヒト双極性障害と関連するSNPsがFADS1/2遺伝子座位に存在することから、FADS1/2遺伝子ダブル欠損マウスの行動解析を行ったところ、リチウム感受性の双極性障害様の行動異常を来すことが明らかとなった。この行動異常がω3PUFAであるドコサヘキサエン酸(DHA)投与によってレスキューされたことから、PUFA欠乏がヒト双極性障害と関連することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
(1)精子形成不全を引き起こすPUFA欠乏の解析 FADS2欠損マウスで作成したPUFA欠乏マウスにおける男性ホルモン産生低下の原因がω6系列のPUFAの欠乏によることは明らかとなったが、男性不妊の表現型そのものをin vivoでレスキューするPUFAは同定できていない。今後は、PUFA欠乏マウスに様々な分子種のPUFAを投与し、男性不妊や精子形成異常の表現型をレスキューできるPUFAを同定する。 (2)貧血を引き起こすPUFA欠乏の解析 PUFA欠乏マウスは、赤血球数と血中ヘモグロビン濃度の低下を伴う貧血を呈した。昨年度の研究から、PUFA欠乏マウスでは網内系マクロファージによる貪食の更新が観察された。初年度に見いだした、シアストレスに対する脆PUFA欠乏赤血球の脆弱性と、このマクロファージによる貪食亢進の関連をあきらかにする。 (3)PUFA欠乏マウスに脂肪肝の解析 PUFA欠乏マウスは脂肪肝の表現型を呈するが、その詳細な解析は行われていない。PUFA欠乏マウスの血漿や肝臓の脂質分子種の定量解析、肝臓の組織学的解析、肝臓における脂質代謝関連酵素の遺伝子発現解析を推し進め、PUFA欠乏によって脂肪肝が発症するメカニズムの解明を行う。
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