研究課題/領域番号 |
21H05008
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福村 知昭 東北大学, 理学研究科, 教授 (90333880)
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研究分担者 |
岡 大地 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (20756514)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
197,600千円 (直接経費: 152,000千円、間接経費: 45,600千円)
2024年度: 17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2023年度: 17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2022年度: 38,350千円 (直接経費: 29,500千円、間接経費: 8,850千円)
2021年度: 108,290千円 (直接経費: 83,300千円、間接経費: 24,990千円)
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キーワード | 希土類単酸化物 / エピタキシャル薄膜 / ヘテロ構造 / スピントロニクス / 酸化物エレクトロニクス / 5d電子 / 4f電子 / 磁性 |
研究開始時の研究の概要 |
希土類単純酸化物の安定相は強固な絶縁体である。ところが,研究代表者らは,その安定相より酸素量が少ない準安定相である希土類単酸化物は,単純な岩塩構造をもち,高い電気伝導性をもつことを見出した。それらの中には,超伝導体や強磁性体もある。本研究では希土類単酸化物の新物質をすべて合成し,希土類元素の5d電子や4f電子を活用した希土類単酸化物の電子・磁性・超伝導性の機能開拓を行う。
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研究実績の概要 |
未合成の希土類単酸化物は、重希土類元素いくつかを残すのみとなった。これまで用いた手法だと、単結晶基板との格子不整合が大きく、低純度の希土類単酸化物薄膜しか得られなかった。そこで、組成で格子定数が可変なバッファー層(Ca,Sr)O固溶体バッファー層を開発した。その結果、不純物がないTbO、DyO、ErOの合成に成功した。DyOとErOは新物質であり、TbOは2022年に初合成を報告したが初めての単相試料である。TbO、DyO、ErOはそれぞれ233 K、142 K、88 Kと高いキュリー温度を示す強磁性体である。共同研究による光電子分光測定から、金属的な電子状態をもつことがわかった。これは遍歴性の5d電子をもつ4fn5d1の電子配置と合致する結果で、論文投稿中である。これらの物質は金属的な電気伝導性と強磁性に伴う異常ホール効果を示すため、磁気伝導特性を現在調べている。残る最後の希土類単酸化物であるTmOは、最長の年数を合成の最適化に割いているが、不純物相を減らすのがきわめて困難である。一方、GdOはCaOバッファー層を用いることで高純度化が可能になったが、電気伝導性が向上しただけでなく、キュリー温度も以前の試料より約30 Kも増加して303 Kと室温に到達し、論文投稿中である。また、NdO超薄膜におけるキュリー温度が倍増した弱強磁性相の観測については、論文発表を行った。 希土類単酸化物のヘテロ接合については、超伝導のLaOと重い電子系金属のCeOからなる良質なヘテロ接合の作製に成功し、電気伝導特性を現在調べている。 また、薄膜作製で用いるエキシマレーザーのガスが入手困難・超高騰化しているため、代替レーザーとしてNd:YAGレーザーを導入したが、エキシマレーザーを用いた場合と同等の結晶性および表面平坦性をもつEuOエピタキシャル薄膜の作製を達成し、論文準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TmOの高純度化が難しいものの、(放射性元素を除く)ランタノイド元素すべての単酸化物の合成に成功した。特に、可変の格子定数をもつバッファー層を開発することで、化学的により不安定な希土類単酸化物やより高純度の希土類単酸化物を合成することが可能になった。その結果、高い絶縁性をもつ希土類酸化物の安定相R2O3と異なり、希土類単酸化物ROはd電子由来の高い電気伝導性をもつことがわかった。また、基本的に非磁性のR2O3と異なり、ROの半分以上は強磁性を示すこともわかった。特に重希土類元素のROはキュリー温度がEuOよりも高く、GdOに至っては室温強磁性を示す。これらの一連の希土類単酸化物の合成は高く評価され、応用物理学会の会誌に解説を執筆した[応用物理 Vol. 92, No. 10, 655-661 (2023);英訳版JSAP Review 2023, 230216-1-7 (2023)]。また、同様の合成手法を用いて、これまで存在しない非希土類単酸化物の合成も可能なことが期待でき、現在、取り組みはじめたところである。 以上のように、いくつも新強磁性体が発掘されたが、通常の強磁性体と異なる性質も観測されている。NdOは超薄膜でキュリー温度が高い磁性相を生じ、TbOやErOは単に磁化に比例しない異常ホール効果を示す。この特異な挙動については調査を進めている。そして、良質なヘテロ接合の作製も可能になってきており、LaO/CeOヘテロ接合では、強磁性でないCeOがLaOの超伝導を抑制することを発見した。 パルスレーザー堆積法による薄膜合成にはエキシマレーザーを用いるのが一般的であるが、貴ガスの入手が非常に困難な状況である。導入したNd:YAGレーザーでもエキシマレーザーの場合とほぼ同等の品質をもつ薄膜の作製が可能であることがわかり、研究の継続性を確保することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ErOが示すキャリアの極性反転や特徴的な磁場依存性をもつ異常ホール効果の再現性を確認し、TbOとDyOとErOの磁気伝導に関する結果をまとめて論文化する。また、TbO超薄膜でも特異な磁性が見つかったため、TbO超薄膜の磁化と磁気伝導性を調べ、特異な磁性の詳細を明らかにする。他の希土類単酸化物のような高純度化が困難であることが判明したTmOについては、混相の試料および不純物相の物性評価を行い、TmOの基礎物性を抽出する。一方、重希土類単酸化物の単相化に有効であったバッファー層を活用して、これまでセスキ酸化物との混相しか合成できなかったYOの単相化に取り組み、そのイントリンシックな物性を再検証する。くわえて、希土類単酸化物すべての合成を達成したので、これまでの知見を活かして、非希土類単酸化物の合成にも取り組む。 昨年度から考察を進めていたNdO/EuOヘテロ構造の磁気伝導について論文化を進める。NdOは軽希土類低温強磁性体であるが、重希土類高温強磁性体であるTbOとEuOのヘテロ構造の物性も調べる。Nd:YAGレーザーでもPt/EuOヘテロ構造を作製できるようになったため、Pt/EuOヘテロ構造の磁気伝導についても論文化を行う。くわえて、EuOよりもキュリー温度が高いTbOを用いて、Pt/TbOにおける磁気伝導やホール効果に関してPt/EuOとの類似性や相違性を明らかにする。また、重い電子系常磁性金属と超伝導体のヘテロ接合であるCeO/LaOにおける電気伝導特性を評価し、重い電子系キャリアと超伝導近接効果の競合を調べる。 希土類単酸化物の固溶体については、予備実験を行ったものの、超伝導や強磁性の転移温度が固溶体の組成に応じて系統的に変化するといった結果で、固溶体で特異な現象が発現する可能性が低い。したがって、固溶体の作製と物性評価はひとまず中断する予定である。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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