研究課題/領域番号 |
21H05021
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
木村 崇 九州大学, 理学研究院, 教授 (80360535)
|
研究分担者 |
大西 紘平 近畿大学, 理工学部, 准教授 (30722293)
野村 清英 九州大学, 理学研究院, 准教授 (70222205)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
178,620千円 (直接経費: 137,400千円、間接経費: 41,220千円)
2024年度: 23,660千円 (直接経費: 18,200千円、間接経費: 5,460千円)
2023年度: 20,410千円 (直接経費: 15,700千円、間接経費: 4,710千円)
2022年度: 30,940千円 (直接経費: 23,800千円、間接経費: 7,140千円)
2021年度: 82,810千円 (直接経費: 63,700千円、間接経費: 19,110千円)
|
キーワード | トリプレットクーパー対 / スピン注入 / 準粒子 / 超伝導 / スピン流 / スピントリプレット / 回転スピン流 / トリプレット超伝導 / スピンホール効果 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、他に類を見ない特性を有する超伝導デバイスに、スピン自由度を絡め、更なる機能性を付加した応用の実現を目指す。申請者が確立している回転スピン流の生成技術、およびスピン偏極準粒子とクーパー対の共存状態の創出技術を用いて、スピン三重項クーパー対やパイ接合ジョセフソン回路などの機能性が高い量子状態を実現する。更に、それらとコヒーレンス制御技術へと高度化することで、再構成が可能で革新的な高機能量子デバイスの実現を目指す。
|
研究実績の概要 |
今年度は、ピラー型の非局所スピンバルブで問題となる、スピン蓄積の二次元的拡散を抑制するため、スピン蓄積が生じるチャネル層の面積を減少させ、スピン蓄積を閉じ込めることで、スピン蓄積の増大を試みた。その結果、スピン蓄積信号が3倍程度増大することを確認した。この増大効果は、チャネル部の面積の減少によりさらに大きくなる為、閉じ込め効果の増大によるスピン信号の更なる増大が期待できる。 また、NbN 薄膜作製の最適化に関しても実験を行った。スパッタ中の雰囲気ガスの Ar と N2 分圧比を変えながら、成膜された NbN 単膜の超伝導転移温度を用いて評価した結果、N2 分圧が 2 % 付近で SiO2 基板上の膜厚 30 nm の NbN 薄膜の転移温度が 11.4 K となった。更に、本条件を採用して、ナノピラー型の横型スピンバルブを作製し、非局所スピンバルブ測定を行った結果、NbNの超伝導転移に伴いスピン信号の増大が観測されており、超伝導ギャップの形成によるスピン吸収効果の抑制が確認できる。この温度依存性を調べたところ、温度の低下とともに、スピン信号が増大する傾向が確認された。このような特性は、以前のNbを用いた素子でも観測されているが、NbNを用いることで、より大きな増大が観測されること、更に、十分低温で、スピン信号の飽和の傾向が観測されていることが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナの影響によるHe3冷凍機の納品の遅延により、回転スピン流によるトリプレットクーパー対の実現はできていないが、スピン偏極準粒子の緩和過程の理解や準粒子状態密度を反映した超伝導転移温度近傍におけるスピン吸収の増大、更には、非磁性層のチャネル面積減少による効率的なスピン蓄積の形成などの新しい知見を得ることに成功している。また、NbN を用いた超伝導転移温度の高温化や超伝導近接効果に伴う常伝導 Cu チャネルのゼロ抵抗、さらにその状態におけるスピン蓄積信号を確認しており、この点においては、計画以上の成果を得ている。また、スピン吸収の温度依存性に関しても、転移温度近傍で極小を取るなど、当初予定になかった成果も得られているため、おおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた知見から、Nb細線内のスピン偏極準粒子が長いスピン緩和長を持つことが確認されたが、Nb自体のスピン拡散長が短いため、スピン偏極の有無により、10 % 程度の違いしか観測されていない。新たに納品されたHe3冷凍機を用いて、スピン軌道相互作用の小さいAl 細線を用いて同実験を行い、スピン偏極の有無による準粒子緩和長の広範な調整を試みる。また、ギャップ近傍の大きな準粒子準位を反映した巨大スピン吸収効果に関しても、巨大スピンホール効果の観測結果も得られている。一方で、磁場印加による超伝導特性の変化がもたらす信号の重畳もあり、解析が複雑になっているため、より系統的な実験を行って、着実な成果につなげていく。加えて、独自に開発した圧力セルを用いて各種物性パラメータの性能向上や界面品質を改善させ、各種デバイスの高性能化を目指す。また、ごく最近成功したスパッタ法による超伝導YBCO薄膜を用いて、d波が持つ軌道角運動量とスピン流のスピン角運動量変換の実現を目指した実験も進め、新機能としてデバイス化を検討する。
|
評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A-: 研究領域の設定目的に照らして、概ね期待どおりの進展が認められるが、一部に遅れが認められる
|