研究課題/領域番号 |
21K01527
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07050:公共経済および労働経済関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
持田 信樹 中央大学, 総合政策学部, 教授 (20157829)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 税制 / 経済成長 / 分布ラグモデル / 財政ショックデータ / ナラティブ・アプローチ / 外生的な税変化 / 内生的な税変化 / 税制改正 / 外生的税収変化 / 減税 / 増税 / 租税政策 / ショックデータ / 外生性 / 政府税制調査会 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は財政ショックデータによる税制改正のマクロ経済への影響に関する研究である。Romer,C. and D. Romer (2010)のnarrativeアプローチにもとづいて、税制改正の歴史的記録文書を解読し、シャウプ勧告から現在までの日本における税制改正を「内生的」税制改正と「外生的」税制改正とに区分し、後者を租税政策のショックデータとして識別する。構造VARや分布ラグモデルを使用して、税の変化がマクロ経済に及ぼす効果を推定する。「減税は景気を回復させるか」「増税は景気回復の足かせになるのか」といった問題に対して、証拠にもとづいた政策的指針を導く。
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研究実績の概要 |
1.税制改革の動機についての識別作業:本研究は,税収の変化がマクロ経済にどのような影響を及ぼすのかを実証的に考察することを目的としている.そのために,税制改正の政策立案過程の記録を蒐集して、David and Christina Romer(2010)のnarrative approachにもとづいて,1955-2014年の日本の税制改革をその動機によって分別して、租税政策のショックデータを整備した。歴史的記録文書としては各年度の政府税制調査会答申、与党税制改正大綱、財務省編纂の財政史を主たる資料とした.本年度は,外生的な税変化の中でも,経済成長促進型の税変化の位置づけについて先行研究を整理した. 2.基本モデルの推定:外生的な税収変化をショックデータとして、マクロ経済に対する税収変化の影響について分布ラグモデルを用いて推定した。本年度は,前処理として,①Granger causality testによる説明変数の外生性,②HAC標準誤差を求めるためのトランケーションパラメータの決定,③Newey/Westの尤度比検定を用いた構造変化の検定を行った.これによって,分布ラグモデルの推定結果が一致性を持ちうることが確認された. 3.モデルの拡張:本年度は,Baseline estimationを3つの方向へと拡張した.①税収変化の副次的なカテゴリーによって,GDPの経路への影響に違いがあるのかを検討した.②消費者は税負担が実際に変化したときに反応するのか,それとも恒常所得仮説が示唆するように,税変化のニュースに反応するのかを同定した.③GDPのさまざまな構成要素,すなわち消費や投資が外生的な税ショックにどのように反応するかを分析して,伝達経路を探った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.税制改革の動機:高度成長期に実施された毎年の所得税減税の位置づけが明確になった.累進所得税においては課税最低限のindexationが欠如するとfiscal dragという副作用が生じるが,これを減税という形で国民に還元して,消費を拡大して,民間の経済活動を活性化させることはfiscal dividend と呼ばれる.日本の所得税減税はこのfiscal dividend の一種であり,成長促進型の外生的税変化であると考えられる. 2.Baseline estimationについて頑健性テストを行い,ロバストであることが確認された.具体的には,Baselineの推定結果の頑健性を3つの観点から検討した.HAC標準誤差の特定化,外れ値の影響,潜在的な除外された変数(経済状況,政府支出)バイアスの考慮,の3点である.これによって,本研究の土台となる推定作業の信頼性が高まったと考える. 3.本年度は,Baseline estimationを3つの方向で拡張したが,それによってつぎのような点が明らかになった.景気対抗型の税変化は経済活動に有意な影響を及ぼさないが,外生的な税変化は長期的かつ有意につよい影響をGDPの経路に及ぼす.成長促進型の税変化は,消費を伝達経路としているが,税変化の実施時点により強く反応する.一方,財政赤字縮減型の税変化は,投資を主な伝達経路としているが,税変化のアナウンスメント時点においてより強く反応する.
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今後の研究の推進方策 |
1.分布ラグモデルのパラメータの安定性について再度,チェックする.尤度比検定により,構造変化は1973年第2四半期であることが判明しているが,1回だけであるとは限らないので,複数の構造変化を視野において,分析していく必要がある. 2.推定結果を先行研究と比較して,本研究のオリジナリティを明確にする.David and Cristina Romer(2010)が,推定結果をBlanchard and Perotti(2001)と比較したように,本研究で得られた推定結果を,同じ日本を対象にBlanchard and Perottiの手法で分析しているWatanabe et al.(2008)と比較するのが面白いかもしれない. 3.研究成果を国内外の研究会・学会で公開発表して,反応を見たい.5月には東京大学の公共経済学セミナーで発表することが決まっている.また8月に米国ユタ大学にて開催される国際財政学会(IIPF)での報告を申し込んだ.これらを踏まえて,ディスカッションペーパーを作成し,専門誌に投稿する予定である.
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