研究課題/領域番号 |
21K02935
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 小山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
上野 哲 小山工業高等専門学校, 一般科, 教授 (90580845)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | アクティブラーニング / 協同作業 / 討議 / プレゼンテーション / 工業高校 / 技術者倫理教育 / エンジニア教育 / 専門職倫理教育 / ケースメソッド |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、工業高校における技術者倫理教育を「対立する価値のバランスをとり、対立する価値双方を生かせるようなベターな判断を可能にするための判断力トレーニング」と位置づける。そのうえで具体的教育手法として、米国の教職倫理教育と日本の工業系の高等教育機関(大学工学部や工業高専)における技術者倫理教育で用いられてきたケースメソッド(討議型授業)を中心的に採用し、「問題点を同僚研究者と共有し、連帯して解決策を模索することができる能力」を鍛えることに重点をおいた、将来の技術者を目指す工業高校生の倫理的判断能力を実践的に養うための具体的教育手法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
前年度の面接調査の結果から、高専や大学における技術倫理教育は、コロナ禍による対面型授業実施制限の影響により、「倫理的課題について他者との深い討議や議論を通して自己の見解を客観化し、多面的に洗練し、他者の納得を得やすい方法で伝達するトレーニング」の実施が難しくなっている状況が明らかになった。このような、アクティブラーニングの実施が難しい状況を受けて、技術者倫理教育は「人としてすべきこと/すべきでないこと」「技術者としてすべきこと/すべきでないこと」を講義によって知識として学生に伝達する、一昔前の方式にやむを得ず回帰している傾向が見られる。また、協同作業についても、学生同士での討議や討論を試みさせる努力は継続されている一方で、チームの倫理的課題の解決策を他者にわかりやすく説明し、発表する機会は確保されていない傾向が強いことも明確になった。 今年度は、これら前年度の調査から明らかになったコロナ禍後の「技術者倫理教育」の変遷を論考にまとめた。現在次年度に書籍(共著)として出版する準備を進めている。 さらに、前年度の調査結果を踏まえ、高校生にもディスカッションが可能と推測されるトピックと話題を扱った試行版のケースを7本作成した。 作成した7本のケースは段階を踏んで抵抗なく技術者として直面する倫理的問題を最終的に扱えるよう、工夫した。最初の3つのケースは、ケースメソッドに馴染みのない高校生でも抵抗なく取り組める内容になっている。また後半の4本のケースの内容は協同作業をベースにした技術者倫理問題を扱ったものである。これらを高専2年生の学生の一部を対象にした授業で試行的に用いて、改善を加えた。 さらにコロナ禍の影響を考慮して、この7本にはいずれも対面授業でもオンライン授業でも用いることができる、教員向けの「ファシリテーター・マニュアル」を添付している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究調査結果を踏まえ、本研究でここまで明らかにできたのは以下の3点である。 1)これまでの技術者倫理教育が掲げていた理念や目的と同様、現状も「人としてすべきこと/すべきでないこと」「技術者としてすべきこと/すべきでないこと」を生徒・学生に理解させることを中心に据えている点は変わらない。2)一方で長いコロナ禍による感染防止対策のため、会話を基にした他者との会話や交流の機会の設定に制限がかかり、アクティブラーニング型の教育手法の長所を活かせていない。3)そのため、技術者倫理教育の教育手法が「学生-教員」「学生-学生」の双方向のコミュニケーションベースの協同模索型ではなく、一昔前の「教員→学生」の一方通行の知識伝授型に回帰しつつある。学生が協同模索作業の成果を、論理的に説得力をもって他者に伝達するトレーニングを行う機会も激減している。 こうした現状分析を踏まえて、今年度は7本のケース教材の開発に取り組んだ。作成した7本のケースは段階を踏んで抵抗なく技術者として直面する倫理的問題を最終的に扱えるよう、工夫した。 最初の3つのケースは、「就職内定後により魅力的な企業から誘いがあった場合にどう対応するか」「職場内の恋愛をどうマネジメントするか」「職場内のLGBTAにどのように接するか」をテーマにしており、ケースメソッドに馴染みのない高校生でも抵抗なく取り組める内容になっている。これらを高専2年生の学生の一部を対象にした授業で試行的に用いて、改善を加えた。また後半の4本のケースの内容は協同作業をベースにした技術者倫理問題を扱ったもので、50分で1本が完結するケースである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度に作成した7本のケースを実際に工業高校で使用し、ケースメソッドを用いた技術者倫理教育を試行する。単独で7本連続(7週連続)でのケースメソッド授業に協力してくれる工業高校がないため、複数の工業高校で、導入部分のケースと技術者倫理問題を扱ったケースを2セットにして実施する予定である。実際の授業の記録もビデオ等を用いて行う。次年度夏以降は実際の授業で明らかになった問題点の改善策を模索する。実際の試行を経て、ケースの内容や難易度、レベルアップの段階などが高校生にとって適切な内容であったかどうかを検証する。そのうえで補足修正を行い、最終的に技術者倫理関連のトピックを題材にした議論をベースに双方向型授業を効果的に展開する方法を確立する。 また今年度コロナ禍後の「技術者倫理教育」の変遷についてまとめた原稿を、次年度に書籍(共著)として出版する。
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