研究課題/領域番号 |
21K03099
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10030:臨床心理学関連
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
有光 興記 関西学院大学, 文学部, 教授 (10341182)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | コンパッション / マインドフルネス / 肯定的感情 / 心的外傷後ストレス障害 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,過去の嫌な経験が繰り返し思い出されて,その辛さで苦しい思いをされている心的外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder: PTSD)の症状のある方を対象に,感謝や愛情といった対人関係における肯定的感情を向上させる慈悲とマインドフルネス瞑想の12週間プログラムを経験してもらい,症状の改善が可能か,また肯定的感情を向上させることができるかを臨床試験という研究方法を用いて明らかにする。さらに,開始当初がコロナ禍であることを踏まえ,これまで国内では研究例のないオンライン介入によって効果が得られるのかについても検討する。
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研究実績の概要 |
近年,様々な精神症状に対するマインドフルネス瞑想や慈悲の瞑想の効果が明らかにされ,全世界に普及しつつある。メタ分析の結果、PTSDに対するマインドフルネスに基づく瞑想のプログラムは,症状低減に中程度の効果があり,統制群と比較しても有意な減少をもたらすことが示された(Hinton et al., 2017)。マインドフルネス瞑想以外にも,肯定的感情や人生の満足感といったポジティブなウェル・ビーイングを向上させる瞑想法として慈悲の瞑想(loving-kindness meditation: LKM)がある。LKMの12週間プログラムは,アメリカ退役軍人のPTSD症状に効果があることが介入群のみの研究(Kearney et al., 2013)とアクティブ・コントロール(認知処理療法; Kearney et al., 2021)と同等の効果があり,また抑うつや不安についてはより効果があることが明らかにされている。このように,PTSDの治療に関して瞑想法による研究が積み重なっているが,国内の研究は含まれていない。 本研究は,コンパッションに注目し,PTSDの症状に対して慈悲とマインドフルネス瞑想のプログラムに効果があるのかを確かめることを目的とした。また,コロナ禍において注目されているオンライン介入を取り入れ,その方法論について確立することも目指している。 2022年度は, PTSDの診断基準を満たした成人を対象に,介入条件(positive affect training: PAT条件)と対照条件として待機群を設けた無作為化比較試験をオンラインで開始した。これまで600名を超える応募者があり,そのうち20%程度が構造化面接によって参加基準を満たし,オンラインの介入を50名程度が完了した。予定の参加者がほぼ集まったので,フォローアップ調査と分析を続け,改善点を明確にする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,PTSDの診断基準を満たす成人を対象に,オンラインで慈悲とマインドフルネス瞑想の12週間トレーニングを行い,症状の改善状況を診断面接と質問紙指標で検討するという計画で進行している。現在,600名を超える応募者があり,そのうち25%程度が電話スクリーニングを通過し,20%程度が構造化面接によって参加基準を満たした。オンラインの介入は、これまでに50名程度が完了した。 2か年の研究の経過を分析したところ,事前と事後の構造化面接で評価した改善度では90%を超える参加者で効果が得られていた。第3者インタビューでも,参加者の満足感は高かった。現状でPTSDの症状を対象とした場合でも,肯定的感情トレーニングは,症状面と満足度の観点から,一定の効果が得られていると考えている。 本研究は比較的順調に進行しており、現時点でほぼ必要な参加者数を募集できており,研究費期間内に必要な数のデータを集められると考えている。ドロップアウト者の分析も進めており,「忙しさ」が最も多い理由として挙げられていた。しかし,そうした表面的な理由以外に,セッション中でも語られる感情の気づきの困難も理由として考察している。事前事後面接やセッション中の一部の瞑想では,トラウマというデリケートな問題を扱っており,体験の回避が強い方にとっては大きな苦痛になる可能性がある。セッション中のトラウマの扱い方については,参加者の方に繰り返し方法をお教えする以外にも,より様子を把握するように画面上,メール上の非言語的情報にも気を配るようにしている。この部分は,今後の研究にも関わるところなので,分析と考察を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,RCTを終えて肯定的感情トレーニング群における瞑想実践の回数や感想も含めて分析し,瞑想実践による症状改善ならびにウェル・ビーイングの変化のプロセスを明確にする。また,前年度から継続してプログラムの満足度調査やインタビューの結果から,その改善点を把握しプログラムを修正する。プログラムが確定次第,年度内の可能な範囲で参加者を集め,単群パイロット研究を実施する。その結果を受けて,PTSDの治療に寄与しうる慈悲とマインドフルネス瞑想による肯定的感情促進プログラムを提案する。
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