研究課題/領域番号 |
21K05119
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
茶山 健二 甲南大学, 理工学部, 教授 (10188493)
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研究分担者 |
岩月 聡史 甲南大学, 理工学部, 教授 (80373033)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | イオン液体 / 溶解度積定数 / 流体デバイス / 色素 / 大麻代謝物 / 濃縮分離 / 3Dプリンタ / 共抽出法 / イミダゾリウムイオン / 溶解度積 / 抽出分離 / イオン液体生成平衡 / リン酸イオン |
研究開始時の研究の概要 |
水溶液中に1-ブチル,3-メチル-イミダゾリウムイオン等の有機陽イオンとビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン等の疎水性陰イオンを順次添加することにより、溶解度積を超えた少量のイオン液体を生成させ、その際に溶存する化学種を、生成したイオン液体相中に抽出濃縮する新たな「共抽出濃縮分離法」を創成する。このイオン液体生成と同時に起こる化学物質の分配平衡挙動を詳細に研究し、新規のイオン液体生成、抽出分離法を確立し、実際の応用として、陸水及び海水中のリン酸イオンの定量を試みる。本法で生成するイオン液体は、プラスチックを侵さないため、マイクロプレート或いはマイクロチップでの応用が可能になる。
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研究実績の概要 |
イオン液体を構成する陽イオンを、ピリジニウム、イミダゾリウム誘導体に、そして陰イオンはNTf2に限定して、数種の色素の共抽出平衡を解析した。この際、②陽イオンを二成分にし、その濃度を変化させて、イオン液体構成成分がどのように変化するかを抽出平衡論的に解析した。これにより、共抽出法におけるイオン液体生成平衡の基礎的な知見が確立された。さらに、環境試料水中のリン酸イオンの濃縮分離定量法を確立した。イオン液体は有機溶媒と異なり、プラスチックを侵さないため、マイクロプレートでの吸光光度分析、プラスチック製或いは樹脂製の微小流体デバイスでの使用が可能である。また、今日まで行われている二相間抽出では得られないメリットを生かし、流体デバイス中での高速抽出反応を利用し、社会でもニーズが大きい、海水、淡水中の富栄養化物質であるリン酸イオンの濃縮分離定量法を確立することを試みた。また、兵庫県警科学捜査研究所と連携して、大麻の代謝物であるテトラヒドロカンナビノール・グルクロン酸抱合体を大麻吸飲の被疑者の尿中より濃縮分離するケースを想定し、イオン液体生成と分離のステージとなるディスクを3DCADでデザインし、3Dプリンタで作成することに成功した。作成したディスクを用い、色素の分離濃縮を確認し、テトラヒドロカンナビノール・グルクロン酸抱合体を濃縮したのちに、LC-MSにより、定量することに成功した。これにより、従来、ガラス製の分液漏斗そして有機溶媒を使用した古典的な分析法であった抽出吸光光度法をディスク状の流体デバイスを用い、イオン液体をデバイス中で生成させる本法に置き換える先駆的な事例を達成した。これらの事例は、振とうすることなく、且つ揮発性のある有機溶媒を全く使わない、ディスクの回転速度のみをコントロールすることで一度に多数のサンプルの抽出を行える画期的な発明として特許出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、最終年度に制作を予定していた抽出デバイスの作成を1年早く完成し、実際の抽出事例も成功裏に確認できた。このデバイスを用いると、1つのディスクで8サンプル以上の抽出を行うことが可能となる。現在は、20サンプル以上の抽出ユニットをディスク内に設計できるかを検討中である。 一方で、これらの抽出ディスクを用いて、抽出・吸光光度定量の可能性も期待されるために、生成したイオン液体が貯留される貯留槽を光学セルに見立てて、光透過を計測するためのデバイスの作成に取り掛かる準備をしている。 また、イオン液体を構成する陽イオン及び陰イオンのバリエーションを増やすことで、溶解度積定数が小さいイオン液体の発見を検討している。これにより、抽出ディスクのデザインも最初に作成したものとは、異なる形状になることが予想される。 また、陽イオン、陰イオンを格納するリザーバーもいずれか過剰に加えることでイオン液体をより早く定量的に生成出来ることと、生成したイオン液体の量も少なくでき、より濃縮倍率を向上させることが期待される。これらの検討のために、現在までいくつかの陽イオンと陰イオンの検討を行っている。また、陰イオンのリザーバーを個々の抽出ユニットに設定するのではなく、ディスクの中心に共通の陰イオンリザーバーを設けることで各抽出ユニットに陰イオンを供給するシステムを使用し、抽出できないかを検討している。 すでに、本研究は先端的知財として、特許出願を終えたが、ここからさらにイオン液体生成を利用するデバイスおよびデバイスを駆動し、サンプル測定を行える装置の作成に向けて、産総研あるいは兵庫県警科捜研などと連携して実用例を増やし、他の研究者の参加も促すことで、この技術を日本発の新技術として普及させたい。さらに、デバイスと装置に関しては日本の分析機器メーカーに呼び掛けることにより、製品化を急ぎたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により得られている研究成果の大きなポイントは1.カチオン或いはアニオン水溶液のうち、いずれか一方をサンプル溶液中に加えることによりミセルライクな集合体を生成した後、残りのカウンターイオンの水溶液を加えて、イオン液体生成を行うために振とうを行う必要がないこと、2.生成したイオン液体がプラスチック製の容器を侵さないため、樹脂製の、3Dプリンタあるいは切削加工機等で作成した抽出デバイスが使用可能なこと、3.生成したイオン液体に蒸気圧がほとんどなく、従来の有機溶媒のように健康を害することがないこと、などがあげられる。そこで、これらの利点を利用し、一度に複数の抽出ユニットをディスク上に持つ抽出デバイスの作成を試みてきたが、現在は、ディスクの中心から最も遠い地点にある生成したイオン液体リザーバーで、吸光光度定量を行うこと、また生成したイオン液体をリザーバーから分取してLC-MS等の方法でサンプル測定を行うことを最終目的としている。しかしながら、装置の開発についてはこの研究の範疇には想定しておらず、現在のところ、イオン液体リザーバーから取り出した50マイクロリットル程度の少量のイオン液体を微小分光光度計により、測定することを検討したいと考えている。この手法により、自動抽出デバイスの有効性が立証されたのち、装置開発の準備を進めていきたいと考えている。古典的な分液漏斗が今なお使用される現代において、イオン液体生成を利用する革新的な抽出デバイスを開発する端緒に立つことができた。そこで、本法のメリットを生かすことができれば、イオン液体を生成させることにより、振とうせず、目的物質を抽出・濃縮する方法論は現在主流の固相抽出と比較しても、遜色のない物質抽出法として、多くの産業領域で使用することが可能となる。現代のトレンドである固相抽出から液-液抽出への回帰の潮流を作りたいと考えている。
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