研究実績の概要 |
本研究は、太陽光と光触媒を利用した水分解による水素製造システムで使用する、可視光を紫外光に変換する新しい無機材料の開発を目的としている。種々のホスト材料に対して機能性付与のための各種イオンを添加した多元系化合物を合成し、得られた試料の結晶学的性質を評価するとともに、そのアップコンバージョン(UC)特性を評価することで、より優れた特性を有する新材料の設計指針を得ることを目指している。これまでの主な成果として、以下が挙げられる。 酸化物Y4Al2O9, Gd2SiO5をホスト材料として、イッテルビウムイオン(Yb3+)とエルビウムイオン(Er3+)を共添加した化合物において、波長980 nmの励起光照射下の可視発光特性が、リチウムイオン(Li+)やナトリウムイオン(Na+)などのアルカリ金属イオンの添加によって大幅に改善することを明らかにした。 また、酸化物La2ZnTiO6 をホスト材料として、Yb3+とホルミウムイオン(Ho3+)、ネオジムイオン(Nd3+)を共添加した化合物において、波長808 nmの励起光照射下での可視発光を観測し、Nd3+の添加によって励起光波長域の拡張が可能になることを明らかにした。 さらに、酸化物Na5R4(SiO4)4F (R = Y, Gd) をホスト材料として、Yb3+とEr3+を共添加した化合物において、波長980 nmの励起光照射下の赤色発光が、マグネシウムイオン(Mg2+)やカルシウムイオン(Ca2+)などのアルカリ土類金属イオンの添加によって抑制可能であることを明らかにした。 ある種のUC蛍光体において、適切なイオンの共添加が、赤外光-可視光変換特性の大幅な改善や励起波長域の拡張、また特定の波長域の発光抑制を可能にすることを示したこれらの実験結果は、今後の効率的な紫外光生成を可能とする新材料開発において有益な成果であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請した研究計画調書において、初年度は、目的に沿った適切なホスト材料の決定を、2年度目はイオン添加型試料における最適組成の決定は目指すこととしていた。 これらの目標に対し、これまでに、Y2BaZnO5, Y4Al2O9, Y2Zr2O7, Gd2Zr2O7, Gd2SiO5, La2ZnTiO6, SrLaZnO3.5, SrBaZn2Ga2O7, Na5R4(SiO4)4F (R = Y, Gd), Na3Al2(PO4)2F3, Na5Al(PO4)2F2, KAlPO4Fなど様々な多元系酸化物とリン酸塩化合物をフラックス法、水熱法、ゾルゲル法、固相反応法などの手法によって合成し、それらの粉末X線回折のデータを用いたRietveld法によるシミュレーション解析によって、その結晶学的性質を決定した。また、これらのホスト材料に対し、機能性付与のための各種イオンを添加した単相試料の合成にも成功した。特に、リン酸塩化合物をホスト材料とした試料においては、水熱法による液相中合成によって、合成温度を130℃まで低温化することに成功し、物質合成の省エネルギー化を可能とする成果が得られた。 さらに、前述の研究実績の概要で述べたとおり、Y4Al2O9, Gd2SiO5, La2ZnTiO6やNa5R4(SiO4)4F (R = Y, Gd) などいくつかの酸化物ホスト材料に対し、適切なイオンを共添加した単相試料を合成し、合成した試料の結晶学的性質と光学的性質の評価によって、UC発光時の赤外光-可視光変換特性の大幅な改善や励起波長域の拡張効果、また特定の波長域の発光抑制効果を明らかにした。これらの実験結果は、今後、効率的な紫外光生成を実現する上で有益な成果と考える。 以上の結果を受けて、研究進捗状況については「おおむね順調に進展している」と判断した。
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