研究課題/領域番号 |
21K06003
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42040:実験動物学関連
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
片山 健太郎 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (50508869)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 糖尿病 / 腎障害 / 腎増大 / 尿細管障害 / Sglt2阻害剤 / 突然変異ラット / 糖尿病モデル動物 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、糖尿病性腎症の発症と進行に尿細管障害が大きく関与していることが明らかにされてきている。糖尿病において生じる尿細管障害には尿細管での糖の再吸収を担うSglt2が関与していることが報告されている一方、Sglt2を介さずに生じる尿細管障害の存在も示唆されている。しかし、その発症機序など詳細は不明である。本研究では応募者らが近年新たに樹立した、糖尿病下においてSglt2非依存的に尿細管障害を呈する糖尿病モデルラット(DEK)を含む複数の糖尿病モデル動物を用いて、糖尿病下においてSglt2依存的および非依存的に生じる尿細管障害の特徴ならびに発症機序を明らかにする。
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研究実績の概要 |
糖尿病発症DEKラット(DEK-DM)およびエンパグリフロジン投与糖尿病DEKラット(DEK-Empa)の腎臓における遺伝子発現の変化:DEK-DMおよびDEK-Empaの腎臓における遺伝子発現を、DEKの祖先系統であるPETラットの腎臓の遺伝子発現と比較した。その結果、DEK-DMとDEK-Empaのどちらにおいても繊維化および損傷治癒に関わる遺伝子群の発現が上昇していた。また、腎の発生や腎障害に関わるGrem2遺伝子の発現もDEK-DMとDEK-Empaのどちらにおいても上昇していた。一方、尿細管で発現している複数の遺伝子、急性腎不全から慢性腎不全への移行を抑制するSIK1遺伝子、酸化障害に応答するCYP1A1の遺伝子の発現低下がDEK-DMとDEK-Empaのどちらにおいても認められた。さらに、嚢胞腎との関連が報告されている一次繊毛関連遺伝子の発現低下も認められた。一方、アミノ酸刺激に応答する遺伝子群の発現はDEK-Empaのみで上昇していた。これらの結果から、エンパグリフロジンはDEKが呈する尿細管の障害や繊維化は抑制しないが、腎臓でのアミノ酸代謝を改善していると考えられた。また、DEKが呈する腎病態には酸化障害や嚢胞腎形成に関わるシグナル伝達経路、Grem2遺伝子が関わるBMPシグナル伝達経路が関与している可能性が示唆された。 腎病態マーカーの探索:膀胱から尿を採取し、尿中cfRNAを単離してマイクロアレイ解析を行い、主成分分析および階層的クラスタリングを行った。その結果、DEK-DM、DEK-Empaおよび正常(糖尿病非発症)DEKラットを群ごとに識別することができた。 原因遺伝子の探索:解析に用いるDNAマーカーを増やし、腎の増大と関連する染色体領域の探索を進めた結果、新たに第19番染色体上に腎の増大と関連が示唆される領域を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎臓の遺伝子発現解析から、糖尿病発症DEKラットにおいて発現が変化しており、なおかつエンパグロフリジン投与によって血糖値を低下させても同様の発現変化が続いている遺伝子が複数同定できた。これらの遺伝子には腎臓の損傷治癒や繊維化など、腎臓の病的変化により二次的に生じていると考えられるものも含まれていたが、一方で尿細管の細胞の異常な増殖により嚢胞形成を生じさせる遺伝子の発現変化や腎臓の発生に関わる遺伝子の発現変化など、糖尿病発症DEKが呈する腎病態に直結する可能性がある遺伝子の発現変化が特定出来た。これにより、糖尿病発症DEKが呈する尿細管の拡張を伴う腎の増大に関わる可能性がある分子機構・シグナル伝達経路について検証することができるようになった。 また、尿中cfRNAの主成分分析などにより、糖尿病発症DEK、正常DEK,エンパグロフリジン投与DEKを識別できたことから、尿中cfRNAがDEKの呈する腎病態を反映しており、尿中cfRNAを用いて糖尿病発症DEKが呈する腎病態を判定できる可能性が示された。 DEKが呈する尿細管の拡張を伴う腎の増大には複数の遺伝的要因が関与していると考えられている。これまで第12番染色体上の領域に存在する遺伝子の関与が推定されていたが、今回新たに第19番染色体上の遺伝子も関与している可能性が示唆された。これによりDEKが呈する腎臓の病態を生じさせる遺伝的要因の解明に近づいたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子発現解析において発現量に変化が認められたものに関して、タンパク質レベルでも変化が生じているのかをウェスタンブロット解析および組織の免疫染色により調べる予定である。また、シグナル伝達経路の下流の標的が明らかになっているものについては、下流のタンパク質の発現量やリン酸化などの修飾状態を調べ、エンパグロフリジン投与によっても改善しないDEKの腎病態との関わりについて明らかにしていく予定である。また、DEKの腎臓において低酸素状態やミトコンドリアの異常が生じているか否かについては未だ明確な結果が得られていないため、継続して調査をしていく。 尿中に含まれるcfRNAのうち、具体的にどのcfRNAが糖尿病発症DEK、正常DEK,エンパグロフリジン投与DEKの状態を反映しているのかを特定し、バイオマーカーとしての使用の可能性を検証する。また、特定されたcfRNAのバイオインフォマティックス解析を行い、糖尿病発症DEKの腎臓においてどのような機構・異常によって、cfRNAの変化が生じているのかを明らかにする。 遺伝学的解析においては、一部の染色体領域についてDEKが呈する腎臓の病態(腎臓の増大)との連鎖の有無がまだ検証できていないため、解析に用いるDNAマーカー数を増やし、全染色体領域について腎病態と連鎖の有無を調べるとともい、DNAの変異の同定を目指す。
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