研究課題/領域番号 |
21K06251
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44040:形態および構造関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
武智 克彰 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (70515501)
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研究分担者 |
高野 博嘉 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (70242104)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 葉緑体ペプチドグリカン / 葉緑体進化 / 葉緑体包膜間タンパク質 / 葉緑体内部構造 / ペプチドグリカン |
研究開始時の研究の概要 |
藍藻を含む全ての細菌は,細胞壁成分としてペプチドグリカン(PG)を持つ。PG壁は葉緑体進化の過程で,消失したと考えられてきたが,我々は種子植物を除くストレプト植物の葉緑体包膜にPGが含まれ,葉緑体分裂に機能している可能性を示した。細胞内共生体から細胞小器官への進化には,大きな障壁があったと考えられており,分裂・増殖に関わるPG壁やそれに関わるタンパク質も変化する必要があったと推測される。本研究では,まだストレプト植物において見いだされていないPGと相互作用するタンパク質の解明を通じて,葉緑体の進化に迫る。
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研究実績の概要 |
ヒメツリガネゴケ葉緑体包膜間には,壁成分としてペプチドグリカン(PG)が含まれる。PGと相互作用するタンパク質を明らかにするため,細菌においてPG結合能が知られるSLHドメインを持つタンパク質がヒメツリガネゴケに存在しないかデータベース検索を行ったところ,4種類の相同遺伝子を見いだし,PpSLH1,2,3,4と命名した。4種類のPpSLH遺伝子の4重遺伝子破壊ラインを作出したところ,葉緑体内に巨大な小胞様構造が観察された。sGFPを用いて4種類のPpSLHsの局在を調べたところ葉緑体周辺部にドット状に局在することが示されたことから,葉緑体包膜間に存在するPGとの関連が示唆された。本年度はPpSLHs機能を明らかにするため,PpSLHsのマルチドメイン構造の解析を行った。PpSLHsはN末端から順に,推定葉緑体移行配列,天然変性領域,1つの膜貫通ドメイン,ペプチドグリカン(PG)結合能が知られるSLHドメイン,タンパク質間相互作用に関わるcoiled-coil構造,機能未知のC末領域をもつことが推測された。各種ドメインを欠損させたsGFPとの融合タンパク質をヒメツリガネゴケ細胞で発現させることで,局在変化を調べ,正常なドット状局在に重要な領域を絞りこんだ。またPpSLHがPGと結合できるか明らかにするために,in vitro結合アッセイを試みた。さらに4重遺伝子破壊ラインで検出される葉緑体内巨大小胞膜が,葉緑体のどの膜由来であるのかを確かめるため,既知の葉緑体膜結合タンパク質をマーカーとし,小胞膜の由来を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PpSLH4の各ドメインを欠損した配列とsGFPの融合タンパク質を一過的に発現させ,局在変化を調べた。天然変性領域,SLHドメイン,coiled-coil構造のいずれを欠損させても,局在は変化しなかった。一方,膜貫通ドメインを除くと,ドットは消失し,包膜間内部に一様にシグナルが検出された。またC末構造を除くと,ドットが巨大化し,各ドットの輝度と面積の測定結果から,葉緑体あたりのドットの総輝度は,全長を導入した場合と変わらないことから,C末領域欠損タンパク質量は全長タンパク質と同程度発現していた。さらに膜貫通領域以降を全て欠損させた場合,C末領域単独欠損と同様,巨大ドットが出現し,C末領域を追加すると,全長タンパク質と同様の局在を示したことから, C末領域及び膜貫通ドメインの存在がPpSLHsの正常な局在に必要であることが示された。特にC末領域については,欠損すると,PpSLHsタンパク質が凝集し,ドットが巨大化するから,C末領域内で未知の包膜間タンパク質と相互作用することが考えられた。一方でPGとの相互作用が予想されるSLHドメインを除いても局在に変化が見られないことから, PGとの相互作用は局在に影響を与えないことが推測された。そこで,SLHドメインとPGとの相互作用を調べるため,PG結合アッセイを行ったが,結合能は確認できなかった。PGが合成できず巨大葉緑体を生じるPpPbp遺伝子破壊株を用い,全長PpSLHsの局在を調べた。巨大葉緑体上に部分的なGFPドットの巨大化が確認された一方で,小さなドットも観察された。PpSLH4重遺伝子破壊ラインで観察される葉緑体内巨大小胞膜の由来を調べるため,局在が既知の葉緑体タンパク質をマーカーとして用い,sGFPにより可視化した。内包膜局在のAtTIC110が巨大小胞膜で検出されたことより,巨大小胞は内包膜由来であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
SLHとPGの結合アッセイでは,結合が確認されなかったものの,実験に用いた領域は,全長では大腸菌でうまくタンパク質を発現させることができなかったため,予想SLH領域に絞っていた。今後は,前後に領域を広げて再解析を行い,PGとの結合を調べる。また機能未知のC末端領域がPpSLHsの局在に大きな影響を与えたことから,C末端領域とPGの結合能についても視野にいれて調査を行う。 PpSLHsの局在に影響を与える包膜間タンパク質を調べるために,免疫沈降実験を行い,候補タンパク質の同定を試みる。同定後は遺伝子破壊を行い,葉緑体機能への影響を調べる。 PpSLH4重変異体で観察される葉緑体内巨大小胞膜の同定では,内包膜タンパク質であるAtTIC110により,巨大小胞膜が内包膜由来であることが示唆されたが,より精度をあげるため,別の内包膜タンパク質を用いて,再解析を行う。 巨大小胞がどのようにして形成されるのかを明らかにするため,エストラジオールの添加による条件的遺伝子発現誘導形質転換体を作成し,添加に応じた小胞発生の消長を調査する。
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