研究課題/領域番号 |
21K06259
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小川 宏人 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70301463)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 神経科学 / 昆虫 / 行動学 / 脳・神経 / ニューロン / 意思決定 / 行動選択 |
研究開始時の研究の概要 |
動物の逃避行動における文脈依存性に注目し、①刺激内容、②外部環境、③運動状態に基づいて逃避行動の選択を行う神経機構を明らかにすることを目的として、コオロギの気流逃避行動における歩行とジャンプの選択を行う神経メカニズムを解明する。 まず、刺激内容に依存した行動選択メカニズムを明らかにするため、行動選択を行う下行性指令ニューロンの探索と気流応答性の解析を行う。次に、外部環境依存性メカニズムを明らかにするため、脳内の多感覚統合と下行性指令ニューロンへの影響の解析を行う。最後に、運動状況依存性メカニズムを明らかにするため、自発運動中の下行性指令ニューロン活動と気流応答性の解析を行う。
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研究実績の概要 |
本年度は、次の3つの課題について研究を行った。 1)気流誘導性逃避行動における行動選択を行う下行性ニューロンの同定と気流応答性の解明:昨年度に引き続き、球状トレッドミル上を運動するコオロギから脳介在ニューロンの細胞内記録を行うとともに、高速ビデオカメラによる計測を行い、肢の動きから気流逃避行動内容の判別を試みた。しかし、トレッドミル上ではジャンプによる逃避行動はほとんど観察されなかったため、歩行運動またはジャンプ運動特異的な活動を示す脳内ニューロンを見つけることはできなかった。 2)気流誘導性逃避行動に関与する巨大介在ニューロン活動の解析:昨年度に引き続き、球状トレッドミル上のコオロギから巨大介在ニューロンの細胞内記録を行い、昨年度報告したMGIに加えてGI 10-2の気流応答と逃避行動の関係を調べた。その結果、GI 10-2の活動はMGIと異なり、逃避行動の有無や反応潜時との相関はみられなかったが、逃避方向と有意に相関した。従って、GI 10-2は逃避行動の移動方向制御に用いられる感覚情報を送っている可能性がある。 3)各付属肢の運動を制御する胸部運動出力の解析:運動出力回路の存在する胸部神経節側枝から運動ニューロン活動を細胞外記録し、前肢、中肢、後肢をそれぞれ制御する前・中・後胸神経節の気流刺激で惹起される運動出力を比較した。その結果、前胸運動出力は記録と反対側からの刺激に対してより大きな活動を示すのに対し、逆に中・後胸運動出力は記録側からの刺激に対してより大きな応答を示した。また、下行性信号を遮断すると前胸運動ニューロンでは、記録側からの刺激に対する応答の一部が消失し、中・後胸運動ニューロンでは反対側からの刺激に対する応答の一部が消失した。これらの結果から、気流刺激で惹起される前肢と中肢・後肢を制御する運動神経の活動特性が異なり、その一部は下行性信号によるものであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1)について、昨年度気流誘導性逃避行動の開始や移動方向制御に関連した脳内ニューロンの同定には成功したものの、最後に残されていた歩行/ジャンプの行動選択に関連するニューロンを発見することはできなかった。これは実験装置上、コオロギがジャンプ運動を起こしにくかったことが原因であると思われる。しかし、課題2)では気流刺激の方向情報を脳に伝えていると考えられてきたGI 10-2の活動が、実際の逃避行動の移動方向の決定に使用されていることを示す結果が得られたことは大きな進展であった。これでGIsの上行性信号をもとに脳内回路が逃避行動を制御する下行性信号を形成しているという、本研究計画の前提となる仮説の証明に一歩近づくことができた。また、気流刺激で惹起される胸部運動出力が前胸と中・後胸神経節で異なることは、前肢は中肢、後肢と異なる機能を持つことを示唆するものである。本研究計画外だが、自由行動下の逃避行動における6本の付属肢の動きの詳細な解析も行っており、その結果と合わせると、受容した気流刺激の方向によって逃避方向をどのように制御するかという、運動制御機構を明らかにできるものと期待される。以上を総合して、研究は「概ね順調に進展している」と判断でできる。
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今後の研究の推進方策 |
当初本研究は令和5年度で終了する予定であったが、得られた研究成果を研究論文として発表するため、研究期間を延長した。令和6年度は、実験結果の解析および学会と論文による研究成果の発表を行う予定である。
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