研究課題/領域番号 |
21K06636
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47050:環境および天然医薬資源学関連
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
井上 誠 愛知学院大学, 薬学部, 教授 (50191888)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | レチノイドX受容体アゴニスト / アルツハイマー病 / ミクログリア / 脳内炎症 / 核内受容体 / アルツハイマー病疾患マウスモデル / レチノイドX受容体 / 天然由来核内受容体アゴニスト |
研究開始時の研究の概要 |
近年、アルツハイマー病(AD)の発症の原因として脳内炎症の関与が示唆されている。特に、脳内で神経機能の恒常性維持に重要な役割を担っているミクログリアが継続的に活性化されることで脳内に慢性炎症状態が惹起されると考えられるようになってきた。すなわち、ミクログリアの機能を制御することにより、AD発症を抑制あるいは遅延できる可能性が考えられる。本研究では抗炎症作用や神経保護・成長促進作用が期待される天然由来レチノイドX受容体アゴニストがミクログリア機能に及ぼす影響を調べ、効果的に脳内炎症を抑制することにより、ADを予防あるいは治療する方法の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の発症原因として、脳内ミクログリアの持続的な活性化により惹起される脳内炎症の関与が示唆されており、ミクログリアの機能を薬物により制御することが可能であれば、AD発症を抑制、遅延できると考えられる。本研究では抗炎症や神経保護作用が期待されるレチノイドX受容体(RXR)に焦点を絞り、当研究室で開発したRXRアゴニスト6OHAの生物活性をin vitro及びin vivoの実験系で詳細に検討した。結果1)6OHAはミクログリア細胞株BV-2において、RXRヘテロダイマーではなく、RXRモノマーあるいはRXRホモダイマーを介して炎症シグナル伝達系に作用し抗炎症作用を示す可能性を見出した。結果2)6OHAが近年炎症の収束に関与している可能性が示唆されているケモカインの一つCCL6をミクログリア細胞株MG5で誘導することを見出し、その誘導はRARアゴニスト、GM-CSF、IL-3などの存在下で相乗的に増強されることを見出した。また、6OHAを胃内強制投与することにより、海馬、大脳皮質で用量依存的にccl6 mRNAが増加することを見出した。結果3)皮膚T細胞リンパ腫治療薬として臨床で使用されているベキサロンテン(Bex)は、高TG血症、低甲状腺ホルモン血症などの重篤な副作用を有しているが、6OHAはBexと等モル濃度の用量で2週間マウスに胃内強制投与してもそれらの副作用は観察されず、Bexより安全性の高いRXRアゴニストであることがわかった。結果4)4~25ヶ月齢のAD発症モデルマウスを用いて、脳海馬における炎症性サイトカイン、貪食能、神経保護作用に関与する遺伝子のmRNA発現量を調べたところ、炎症性サイトカインのmRNAレベルはこれまでの報告と異なりさほど大きくはなかったが、神経保護あるいは貪食作用に関与する遺伝子のmRNAは10ヵ月齢以降で有意に上昇した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究計画の進捗状況は以下の通りである。計画1)RXRアゴニストがミクログリアの炎症及び機能に及ぼす作用を明らかにする研究では、1>6OHAのミクログリア細胞株BV-2に対する抗炎症作用の詳細を解析し、作用機序の詳細が明らかになりつつある、2>RXRαを部分的にノックダウンしたBV-2細胞では6OHAの抗炎症作用が抑制されることより、6OHAの作用はRXRを介したものであることがわかった、3>RXRとヘテロダイマーを形成するパートナー核内受容体のアゴニストとの抗炎症作用の相違を調べ、6OHAはRXRモノマーあるいはホモダイマーを介して作用している可能性を示した。以上、本計画に関する研究は順調に進行している。計画2)6OHAがMG5細胞で誘導するCCL6及びMTI/IIの発現調節機序および脳機能における生理的な役割を解析する研究では、両遺伝子mRNAの転写が各種の核内受容体アゴニストやサイトカイン類により強く活性化されることを見出し、それらの遺伝子産物が炎症の収束を促進している可能性を立証する研究へと発展している。計画3)ADモデルAPPNL-G-Fマウスの脳内炎症に及ぼす6OHAの作用を検証する研究では、25ヵ月齢のAPPNL-G-Fマウスに及ぼす効果を調べたが、6OHAはBexと同様に脳内の炎症を有意に抑制する効果は確認出来なかった。本計画では現時点でよい結果は得られていないが、研究は着実に進行している。計画4)6OHAとBexの生物活性の相違を比較検討する研究では、C57BL/6jマウスにおいてBexが示す高TG血症、肝腫大などの重篤な副作用を6OHAは誘導しないことが明らかになり、6OHAは安全性に優れたRXRアゴニストであることを証明した。以上のように、本研究課題の計画は着実に進んでおり、これまでに報告のない幾つかの興味深い知見を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は科学研究費助成事業の最終年度にあたり、これまでに新たに見いだした知見に基づき研究計画の目的を達成することを目指し、以下のように研究を進める。 計画1)RXRアゴニストがミクログリアの炎症性サイトカイン産生に及ぼす作用は、RXRとヘテロダイマーを形成するパートナー受容体に対するアゴニストとは異なる機序で機能していると考えられるので、その新たな機序を詳細に検討し、解明する。 計画2)RXRアゴニストはCCL6やMTI/IIなどを誘導することで、炎症の抑制あるいは炎症の収束に関与していることが予想されるので、その作用機序をin vitroの実験系で明らかにする。 計画3)ADモデルAPPNL-G-Fマウス(15ヵ月齢)に対して6OHAが及ぼす脳内炎症の改善効果を、炎症惹起物質(サイトカイン、一酸化窒素、プロスタグランジン 他)産生系に及ぼす作用だけでなく、炎症の収束に関与する分子にも着目して検証する。 計画4)6OHAはBexが有する副作用を殆ど示さないRXRアゴニストであることがわかったので、さらに、両者による遺伝子の発現誘導プロファイルを網羅的に解析して比較検討することにより、6OHAがBexと異なる遺伝子発現誘導を有する安全性の高いRXRアゴニストであることとその有用性を証明する。また、6OHAが薬物動態学的にBexより優れたRXRアゴニストであり、胃内強制投与後速やかに脳内へ移行することを証明するために、重水素標識した6OHAを合成し、6OHAあるいはBexの胃内強制投与後の血清、海馬、大脳皮質の濃度をLC/MS/MSで測定することで、両者の薬物動態の相違を調べる。
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