研究課題/領域番号 |
21K06797
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48030:薬理学関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
佐藤 洋美 千葉大学, 大学院薬学研究院, 講師 (30506887)
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研究分担者 |
樋坂 章博 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (80420206)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | SGLT2阻害薬 / 脂肪細胞 / マクロファージ / 心血管イベントリスク / 糖尿病 / メタボローム / 炎症 / 代謝 / ケトン体 |
研究開始時の研究の概要 |
生涯疾患である糖尿病の長期予後改善のため、特に心血管イベントリスク(CVR)の総合的予測を目指し、疾患時間軸に基づいてリスクを分析する疾患数理モデルの構築と精密予測に寄与する新規バイオマーカーの創出に取り組む。モデル構築には被験者個別の公開臨床試験情報を活用し、短期間のバイオマーカー情報から全病期の長期推移を予測する独自技術を用いる。さらにCVRに寄与する新規バイオマーカーとしてSGLT2阻害薬の臓器保護作用で見いだされたケトン体代謝の有用性を探る。最終的に疾患数理モデルのパラメータにケトン体情報を追加することで精密予測への寄与を検証する。
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研究実績の概要 |
R3年度に引き続き、本研究では3つのステップで糖尿病の心血管イベントリスク(CVR)の長期予後予測を目指している。1) 基本となる疾患時間推定を行う数理モデルの構築、2) 代謝調節能が期待されるSGLT2阻害薬において、ケトン体もしくはその他の代謝物のCVR予測マーカーとしての可能性の探索、3) CVR予測曲線の作成である。 1)についてR4年度は調査対象とする大規模臨床試験のACCORD試験被験者個別情報およびその一部の被験者検体の運搬手続きを進め、無事に納品された。入手データを整理し、臨床試験実施当時の再現や強化治療群と標準治療群の見逃された差がないか、全死亡、心血管死、心不全、心筋梗塞などの各種リスクごとに種々のサブグループ解析を行い、血糖値変動の大きさとリスクへの寄与を定量的に予測する簡潔なモデル構築を進めている。2) については、前年度に引き続きSGLT2阻害薬の作用点の検討から心血管イベントや心不全の新たな病態解明を目指し、脂肪組織炎症およびその帰結が心筋の障害に至るとの仮説で実験準備を進めた。3) の検討は直接的に進捗が無いが、他のグループで本研究の疾患進行予測の要として活用予定のSReFT解析に経時的に変化するリスクの情報を組み合わせる試みを開始しており、ACCORD試験の情報でも同様の予備検討を行った。また、バイオマーカーとしてメタボロームを活用できるか、1)で納品された被験者検体によるパイロットスタディの準備を進めている。また評価方法についてはメタボローム流束(flux)解析に着手して、定点におけるメタボライト存在量の変化のみならず、その代謝物の生成に関わる反応速度定数を推定する動的モデルの準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R4年度には公的リポジトリであるBioLINCCに保管されているACCORD試験情報について、所属機関の倫理審査を経てにBioLINCCに申請し、受理された。また、心血管イベント(CV)陽性患者・CV陰性患者の背景が紐づいた検体も輸送手続を終えて無事に受理した。被験者背景情報を整理し、メタボローム解析に着手する検体を選出した。入手した臨床試験情報は、オリジナルの臨床試験の結果を再現できることを確認し、主エンドポイントである全死亡、心血管死や、その他の副次エンドポイントに対し、サブグループ解析を進めて共変量の検討を開始している。個々のリスクへの寄与について、マルチステートモデルを応用し、簡潔な表現化が可能か検討を進めた。 CVリスクの予測のために、近年心保護作用が報告されているSGLT2阻害薬の作用点から病態解明を探索している検討は、R3年度に引き続き、脂肪組織の炎症を想定し、脂肪細胞を構成する脂肪細胞およびマクロファージに対するSGLT2阻害薬(empagliflozin(Empa), dapagliflozin(Dapa))の影響を確認した。双方の細胞炎症をEmpa, Dapaが抑制する傾向を示したが想定よりも緩徐な変化であったため、この抗炎症作用は間接的な関わりと考え、特にマクロファージの分極化に与える影響の調査を進めている。メタボローム変動の評価はR3年度の再現性を確認した。一方で、今後のシステム薬理学的評価に落とし込むために活性をパラメータ化することを目指し、方法論を開拓した。 また、CVR予測のための疾患進行モデルの作成では、当研究室で開発したSReFTの計算力向上のため、機械学習を前半に組み込んだSReFT解析を研究室の別のプロジェクトで進めており、ACCORD試験の解析においても応用できるように情報共有を図った。 以上よりおおむね計画通りの順調な進行と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度となるため、1)と2)の検討を次第に統合し、3)のステップの構築を目指している。R4年度に臨床試験情報からも抽出された血糖変動の激しさを何らかのパラメータに置き換え、マルチステートモデルおよびSReFT解析に持ち込めるか検討する。R3年度にはいくつかのアミノ酸系メタボライトが炎症条件で変動し、SGLT2阻害薬がさらにそれを変動させる結果を得ている。R5年度はACCORD検体試料を用いた解析も進めて、これまでのin vitro培養系の再現や、より感度の高いバイオマーカーの探索を引き続き行う。最終的に選出されたバイオマーカーをCVリスクの予測を数理モデルに落とし込んでいく。またその理論的な機構解明は細胞実験系および動物モデルで追究する。
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