研究課題
基盤研究(C)
認知症性疾患の超早期の診断には、神経心理検査は精度が低く、客観的バイオマーカとして脳の画像診断が期待されている。MRIは非侵襲的であり比較的安価で繰り返し測定も容易なことから応用が望まれる。しかし、認知症の超早期において脳萎縮はごく軽度であり、従来の脳体積測定や皮質厚測定では異常を発見しがたい。一方、脳内ネットワーク解析は脳局所の相互の関連を数学的に解析する手法であり、超早期でのネットワーク異常を鋭敏に検出しうると推測される。本研究では、MRIの中でも特に普遍性の高い全脳の3次元T1強調画像に注目し、グラフ理論による構造ネットワーク解析を応用することにより超早期診断における有用性を検討する。
アミロイドPET陽性は、アルツハイマー病(AD)の診断の前提条件である。日常臨床でアルツハイマー病と診断される症例のうち、約30%にアミロイドPET陰性例が含まれると報告されており、アミロイドPETはAD診断に大きな影響を与えることが分かっている。しかし、ADが疑われるすべての患者にアミロイドPETを実施することはできず、アミロイド陽性を予測する他のバイオマーカーが必要とされる。本研究では、このバイオマーカーとして、構造的T1強調MRIに着目した。(方法)臨床的にADの可能性があると診断された患者のうち、脳血流SPECTでADに特徴的なパターンを示さなかった55名(男性29名、女性26名、年齢は平均72歳、MMSEスコアは平均25)を対象とした。 全員に3DT1強調画像を含むMRIと11C-PiB(32例)または18F-NAV4694(23例)によるアミロイドPETを実施した。アミロイド蓄積はCentiloid Scale (CL)を用いて定量化した。3DT1強調画像から灰白質を抽出し、個人レベルの脳内ネットワーク解析をグラフ理論に基づいて行い、脳内ネットワークのハブ領域を表すbetweenness centrality(BC)画像とCLとの相関を求めた。共変量は、グラフ解析に使用したノード数、機械学習手法を用いてMRIから得た脳年齢とした。(結果)55人中29人が、視覚的解釈によりアミロイドPET所見が陽性であった。全体のCLは平均39であった。CLとBCの相関は、楔前部でZスコア3.17 (p<0.001) と有意な逆相関を示した。(結論)ADの可能性のある患者において、構造ネットワークのMRI解析により、アミロイド蓄積の程度を推定することができた。アミロイドの早期蓄積を伴う楔前部のハブ領域としてのネットワーク異常は、ADに特徴的な所見といえる。
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