研究実績の概要 |
切除不能肝癌において免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) が臨床使用可能となったが、がん免疫療法において、治療が奏功する “Hot tumor”と無効の“Cold tumor”の概念において、無効例の予後は極めて厳しい。“Hot tumor”とは、免疫微小環境においてCD8+T細胞の浸潤が多く認められるT cell-inflamedで、“Cold tumor”とは、Non- T cell-inflamedと考えられている。今回、免疫微小環境におけるCD8+T細胞の浸潤を介し“Cold tumor”を“Hot tumor”に変化させる肝癌免疫療法の構築を試みることを第一の目的とする。また肝癌において様々なICI、分子標的治療薬(MTA)が保険適応となった中、分子診断に基づくICI、MTAの選択は規定されておらず、ICI, MTAの奏効に関するバイオマーカーを確立し、コンパニオン診断の基盤を構築することを第二の目的とする。nuclear factor of activated T cells (NFAT)は、免疫応答に不可欠な分子であり、近年、宿主の防御システムを制御するIKK-εの欠損においてNFAT抑制、CD8+T細胞を介した免疫応答の増強が報告されており、今回、“Cold tumor”から“Hot tumor”への免疫療法の変換として、IKKε 抑制、β-cateninの不活化によりCD8+T細胞を介した免疫応答が亢進し、ICI治療において相乗効果が得られるかを検討する。またICIの治療効果を、臨床検体;組織上の免疫微小環境において、CD8+T/PD1,Treg/PD1 の 3 つのマーカーから相互的に検討する。更にICI効果関連血中バイオマーカーの解析として、HCCと関連またはICI関連immune geneのchemokine群において網羅的に解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021-22年度は、抗 PD-L1抗体治療の奏効に関するバイオマーカーの同定を主体に行っている。1-1) 抗 PD-L1抗体治療の肝癌組織検体を用いて免疫組織染色を行い、腫瘍浸潤部における PD-L1、CD8+T/PD1、Treg/PD1 の発現と治療効果の相関を検討した。3種のマーカーの内2種以上高発現で治療効果が良好であり、バイオマーカーとしてのスコアリングを構築している。2) リキッドバイオプシーにおいて、HCCと関連またはICI関連immune geneのchemokineとされているCD274, LAG3, CCL2, 4, 5, 20, CXCL 1, 9, 10, 11, 12, 13, CX3CL1, CCR5, IFNγ, IL-6, 8の16 chemokineの治療前血中濃度と抗PDL-1抗体治療の効果を検討し、CXCL9高値、LAG3低値と、治療効果、PFS, OSが相関していた。 2-1) IKKε 抑制による CD8+ T 細胞数、免疫関連分子の発現変化について、フローサイトメトリーにて解析し、IKKε の抑制と、抗 PD-L1 抗体療法により、CCL5, CXCL 8, 9, 12, IL-6等免疫関連分子の発現変化を検討している。2) β-catenin/TCF 転写活性抑制による CD8+ T 細胞数、免疫関連分子の発現変化を検討中である。Adenoviral Vector を用いて後天的に IKKε を抑制するマウスの発育は充分でなく、要検討中である。 実臨床に沿うバイオマーカー研究の方を優先的に行い、基礎研究においてやや遅れが生じている。またICI, MTA治療における臨床dataのまとめと解析を行い、時間を要し、やや基礎研究の方で遅延の原因となっているが、ICI, MTA治療の論文を今年度10に示すように報告している。
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