研究課題/領域番号 |
21K08009
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
直江 秀昭 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 准教授 (30599246)
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研究分担者 |
古田 陽輝 熊本大学, 病院, 特任助教 (00869513)
渡邊 丈久 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (20634843)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 炎症性発癌 / AOM-DSS / 背景大腸粘膜 / Wnt経路 / コリン欠乏高脂肪食 / 肝発癌 / 空間的遺伝子発現解析 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者らはこれまでの研究活動から、Cdh1活性型遺伝子変異マウスがコントロールマウスよりも、多くの大腸腫瘍を形成するという結果を得ている。本研究では、このマウスの肝発癌実験とヒトサンプルを含めて、遺伝子発現や免疫組織学的解析に加え、Visiumを用いた空間的遺伝子発現解析を行うことで、慢性炎症を背景として発生する消化器癌の発癌機構を微小環境の変化も含めて明らかにする。さらに、その結果に基づき、Cdh1や関連する分子を標的とした発癌予防戦略の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
Cdh1活性型マウスとコントロールマウスに対して、炎症性発癌モデルとしてAOM-DSS実験を行った。その結果、Cdh1活性型マウスでは、コントロールマウスに比べて多くの腫瘍を形成した。それぞれの背景大腸粘膜から抽出した遺伝子を比較した結果、両者で変化の大きい遺伝子として約151遺伝子が抽出された。炎症反応に関与する遺伝子には、Cxcl1やCdcl5、Tnf、IL1b等が、Wntに関与する遺伝子としてはAxin 2、Mmp7、Wnt6、Wnt10a等が含まれていた。これらをGene set enrichment analysis (GSEA)で遺伝子セット解析してもやはり、Wnt経路の発現上昇が認められた。 一方、Cdh1活性型マウスとコントロールマウスの腫瘍部分から抽出した遺伝子を比較したところ、有意な遺伝子発現の差異は見られなかった。 肝発癌実験においては、Cdh1活性型マウスとコントロールマウスにコリン欠乏高脂肪食を摂取させ、経時的に体重変化を測定するとともに、血液中の肝逸脱酵素(ALT)や腫瘍マーカーであるAFPの測定を行った。その結果、体重は12週経過した頃から48週頃まで増加しており、Cdh1活性型マウスでやや増加が目立つ結果であった。ALTは20週時点で、どちらの系統のマウスにおいても上昇したが、Cdh1活性型マウスにおいてより上昇していた。AFPは20週以降で上昇したが、両系統における差は見られなかった。エコー上、マウスの肝臓内に腫瘤の形成があり、両系統における腫瘍数やvolumeの違いは見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
大腸腫瘍発生については、腫瘍部よりも背景粘膜において遺伝子発現の差異が見られ、このことは、大腸の炎症性発癌を考える上で非常に重要な現象を捉えたと言える。さらに癌の母地となる背景粘膜において、Wnt経路の活性化が予測される結果であった。しかし、Cdh1の活性化が、具体的にどのような機序でWnt経路の活性化につながっているのかを明らかにすることはできなかった。その理由として特に、当初予定していた空間的な遺伝子解析であるVisiumを実行できなかったことが大きいと思われる。 大腸の腫瘍形成割合の違いから、Cdh1活性型マウスとコントロールマウスでは肝発癌にも差が見れらることが予想された。コリン欠乏高脂肪食の摂取により、予想通り両系統のマウスの肝臓に腫瘤を形成することに成功した。しかし、腫瘍マーカーやその腫瘍量に明らかな違いが見られなかったことから、Cdh1は大腸癌とは異なり、肝臓の炎症性発癌には関与しない可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
大腸の発癌については、これまでの実験結果から背景粘膜が重要であることが明らかになり、今後はより背景粘膜に特化した解析を進める予定である。具体的には、当初の計画通り空間的な遺伝子発現解析であるVisiumを、腫瘍形成の無い大腸の炎症部分に対して行う。また、免疫学的解析用に保存したマウスの大腸の実験を準備中である。 Cdh1活性型マウスとコントロールマウスで肝発癌率に大きな差異は見られなかったが、肝発癌の刺激としては、現在のコリン欠乏高脂肪食で十分と思われる。それぞれ12匹ずつを解析した結果であり、解析数を増やすことで異なる結果となる可能性が残っている。今後は解析数を追加することで、上記の結果が正しいかどうかを最終的に判断する。48週経過後の開腹による判定では時間を要するため、経時的な腹部エコーによる評価を行う。Cdh1活性型マウスとコントロールの肝発癌状況に差が出てくれば、大腸と同様にマウスの背景肝組織に対するVisium解析も行いたい。
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