研究課題/領域番号 |
21K08321
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53050:皮膚科学関連
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
尾山 徳孝 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (30332927)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 細胞外基質 / ECM1 / 腫瘍浸潤 / 腫瘍転移 / マウスモデル / 間葉転換 / 癌微小環境 / 皮膚がん |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、細胞外基質の1つであるECM1が皮膚癌の周辺微小環境を整え、癌の多彩な間葉転換と免疫回避能の制御に及ぼす役割を解析する.さらに細胞外基質の機能変化を発端とする新たな癌寛容機構の解明を目指す.ECM1欠損マウスの皮膚に種々の担癌状態を誘導し、癌の生着能と進展様式を評価する.癌微小環境の細胞外基質と免疫担当細胞の変化を網羅的に解析し、特定の細胞外基質に依存する癌の免疫応答と進展の機序を理解する.これらをヒト皮膚癌と比較し、ECM1が皮膚の老化発癌を制御する癌間質マスター分子である可能性を追求し、周辺間質分子の標的治療を視野にいれた臨床応用の基盤の構築を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究では、昨年までの検討課題である以下の2項目を主たる目的として、さらに詳細に検討を行ってきた。① extracellular matrix molecule 1 (ECM1) 依存的な皮膚癌の運動機能転換および免疫回避能と連動する癌微小環境の変化を解析し、ECM1の癌間質制御分子としての可能性を検討する、②ECM1分子の挙動と連動する皮膚の細胞外基質を特定し、これらを標的とした新たな皮膚癌の治療応用への展開を模索する。①の目的を達成するため、ECM1欠損マウスに数種類の皮膚由来癌細胞株(有棘細胞癌細胞、黒色腫細胞)を植え付け、癌細胞の局所維持と進展機構の解析を試みた。すなわち、まずはコンベンショナルな手法でECM1遺伝子欠損マウスを作成することに挑戦した。しかしながら、予想されたごとく通常の遺伝子ノックアウト法では全例が胎生期に死亡することが確認された。これにより、ECM1が単なる疾患感受性遺伝子としてではなく、発生学的にも重要な分子であることが確証された。
次の手段として、1) コンディショナルノックアウト法による臓器特異的なECM1欠損状態を作成する手法、さらに2)培養皮膚線維外細胞をsiRNA法を使ってECM1遺伝子のみを欠損させる手法の異なる実験系へ切り替えながら、実験を継続中である。
ECM1遺伝子のノックアウトヒトモデルである皮膚粘膜ヒアリノーシスは、常染色体劣性遺伝形質であるが、胎児致死や生命予後には殆ど影響を及ぼさない遺伝病であることから、今回の結果はマウスのものとは異なることが分かった。ECM1がヒトとマウスの種間で異なる作用を持つ分子である点は、非常にユニークな検討結果である。この視点から、さらにECM1の未知なる生体内機能を模索していく予定である 。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に詳細を述べたように、コンベンショナルな手法でECM1遺伝子欠損マウスを作成することに挑戦したが、全例が胎生期に死亡することが確認された。これにより、 ECM1が単なる癌進展・疾患感受性遺伝子としてではなく、発生学的にも必要不可欠な分子であることが確証されたことは、本分子の単一ヒト遺伝病が存在することからも大きな意義をもった知見と考えられる。
上記の結果をもとに、現在すでにCre-LoxPシステムを用いたコンディショナルノックアウト法で、臓器特異的なECM1欠損状態を作成する手法へ切り替えながら、実験を継続している。すでに遺伝子導入用のベクターの構築は終了しており、導入に向けた精製・分離を行っている。また、これらと並行して、皮膚で担癌状態を作りやすい皮膚癌細胞株の選定が既に完了しており、現在数種類の細胞株を入手して、様々な培養条件で細胞増殖能、分裂能に加え、皮膚へ投与した際の炎症誘導能やそれらにかかる時間を検討している。
さらに、ECM1遺伝子を欠損させた培養皮膚線維芽細胞の樹立にも成功しており、マウス作成が滞っている間、我々の目的を支持できる他の実験系の構築にも取り掛かっている。まだ報告できる結果はでていないが、皮膚のみでECM1の発現を調節することで、胎生致死を回避し、ECM1欠損発癌・担癌マウスの作成へとつなげていく。当初の予定ではすでにECM1欠損マウスを樹立し、それを用いた研究課題を施行している時期であったため、研究計画が若干遅延している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
上記で作成し得たECM1遺伝子欠損マウスの皮膚へ、異なる数種の皮膚癌細胞株(有棘細胞癌株: HSCシリーズ, A431, DJM-1/黒色腫細胞株: HMU-1, A375, DEOC-1)を個別に接種する。 癌細胞の皮膚接種部位への生着度、局所での浸潤能や転移能に寄与する上皮-間葉転換EMTや間葉-アメーバ転換MATの運動機能転換レベルの違い(Rac、RhoA/ROCKシグナルの活性化などを含む)、さらには生存率などの変化を評価する 。
これらをもとに、ECM1分子に依存的な皮膚癌の挙動に関わる周辺微小間質の構成変化を検討していく。具体的には、上述したECM1欠損担癌マウスの皮膚と転移組織における間質エフェクター細胞(NK細胞、細胞障害性T細胞、腫瘍随伴マクロファージ、癌関連線維芽細胞など)の数的な変化、組織内の分布を検討する。Laser microdissection法で切り出した癌微小環境ユニットの蛋白変化を網羅的にプロテオーム解析し、癌の生着や転移イベントに感受性の高い間質分子を同定することを予定している。
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