研究課題/領域番号 |
21K08491
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54030:感染症内科学関連
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
土肥 直哉 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (80754217)
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研究分担者 |
野間口 雅子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (80452647)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | HIV-1 / HIV-2 / 遺伝子発現 / PIM / 転写 / 翻訳 / PIM阻害剤 / 複製制御 |
研究開始時の研究の概要 |
HIV-1とHIV-2とは、世界的分布や病態進行などが異なるが、これらの要因については未解明な点が多い。申請者らは、PIM阻害剤と新たに合成した誘導体がHIV-1とHIV-2の感染性に及ぼす影響を調べた結果、HIVタイプ特異的に感染価が増加あるいは減少することを見出した。本研究では、我々が有するPIM阻害剤のHIV感染に対する作用機序を解明する。本研究課題の達成は、HIVタイプで異なる病原性に関して科学的根拠となる知見をもたらし得ると共に、癌領域などで治療薬として開発が進められているPIM阻害剤のHIV複製制御への展開に繋がると期待される。
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研究実績の概要 |
PIMキナーゼは、PIM1、PIM2、PIM3に分類され、各PIMが発現している細胞や組織が異なることが知られている。PIMキナーゼは、転写や細胞周期などを調節する種々の分子を基質としており、細胞の増殖や分化に関与する。昨年度までに、ある種のPIM阻害剤がHIV-1およびHIV-2の感染性を増減させ、これが逆転写など複製前期過程への影響ではなく、HIV遺伝子発現への影響によるものであることを明らかにした。今年度は、まず、PIMがHIVの遺伝子発現を含む複製後期過程に及ぼす影響を解析するため、HEK293T細胞にPIM発現ベクターとプロウイルスクローンのコトランスフェクション実験を行った。その結果、ある種のPIMの過剰発現により、HIV-1およびHIV-2のウイルス産生量が著減することが分かった。また、PIMのキナーゼ活性欠損変異体を用いた同様のコトランスフェクション実験により、ウイルス産生抑制がPIMのキナーゼ活性によるものであることを明らかにした。さらに、これらのウイルス産生量の低下は、ウイルスタンパク質発現量の低下によるものであることも分かった。3つのタイプのPIMの内、2つのPIMがウイルス産生量/タンパク質発現量を抑制するが、これら2つを同時にプロウイルスクローンとコトランスフェクションすると、単独PIM発現よりもさらにウイルス産生量が低下した。タイプの異なるPIMによるウイルス産生抑制は相加的、あるいは、2つのPIMの作用機序は異なり協調的に作用する可能性が示唆された。 PIMはタイプにより発現する細胞や組織、その発現量などが異なっており、種々の細胞内イベントに関与することが示唆されているものの、それぞれのPIMの基質など詳細な機構は未解明な点が多い。本研究でウイルス産生量という生物学的な指標を取り入れ、PIMの作用機構を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の発端は、PIM阻害剤によるHIV種特異的な感染価変動の機構を調べることであった。しかし、PIM阻害剤の作用点やPIM阻害剤によるキナーゼ活性の変化は、細胞内の生理環境に対して種々の影響を及ぼし得ることから、真正のプロウイルスクローンを使用した実験に変更した。昨年度行ったHIV感染価の解析には、HIVのnef遺伝子にルシフェラーゼ遺伝子を導入したウイルスクローンを使用していた。このクローンとPIMをHEK293T細胞にコトランスフェクションすると、PIM存在下での遺伝子発現(ルシフェラーゼ活性)は、HIV-1では増加するが、HIV-2では減少した。しかし、PIM阻害剤やPIMによるウイルス遺伝子発現(細胞内ルシフェラーゼ活性)のHIV種特異的な影響は、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したウイルスクローン特異的な現象である可能性があった。ルシフェラーゼ遺伝子を持たない真正プロウイルスクローンを用いた実験では、当初のHIV種特異的な現象は観察されなかったものの、HEK293T細胞でのPIM過剰発現はHIV粒子産生を阻害することが明確となった。この現象は、3つのPIMタイプの内、2つで認められた。これら2つの内、1つはHIV-1/HIV-2 LTRの基礎転写活性を減じたが、もう1つは基礎転写活性に大きく影響しなかった。さらに、予備実験段階ではあるが、2つのタイプのPIMはウイルス産生量およびウイルスタンパク質発現量を低下させるが、1つのPIMはウイルスの転写を減じ、もう1つは転写に大きく影響しないことを示唆するデータを得ている。PIMのタイプにより、HIVウイルス産生を抑制する作用点が異なる可能性があり大変興味深い。PIMタイプによる作用機構の違いを解析することで、未解明な点の多いPIMの基質と細胞内イベントへの関与を明らかにしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
真正のプロウイルスクローンとPIM発現ベクターを使用することで、PIMがHIV-1およびHIV-2のウイルス産生量を低下させることが分かった。さらに、この低下がPIMのキナーゼ活性によるものであることを、PIMキナーゼ活性欠損発現ベクターを使用することで明らかにすることができた。この実験系はHEK293T細胞を用いたPIM過剰発現系ではあるものの、今後、異なるタイプのPIMキナーゼ活性によるウイルス産生抑制機構の違いを解析できると考えられる。一方、HIVの複製という観点からは、これが過剰発現系で得られたデータであることから、内在性のPIMの発現量で実際にウイルス産生抑制が起こり得るのか否かは今後の重要な検討課題であると考えられる。先行研究によると、リンパ球系細胞でも由来によりPIM mRNAの発現量は異なるようである。PIM発現量が高いとされる細胞株ではなく、PIM発現量が低いとされる細胞株が一般にHIV感染実験に使用されているようであった。このことは、PIMとHIV複製との何らかの関連性を示唆しているのかもしれない。PIM発現量が高いとされる細胞株を用いてノックダウン実験等を行い、PIMとHIV複製との関連も解析していく予定である。
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