研究課題
基盤研究(C)
癌細胞と免疫細胞が直接接触した際に細胞膜の断片を相互移行させるトロゴサイトーシス現象が癌の免疫応答に及ぼす影響についてはほとんどわかっていない。そこで、M2マクロファージ、好中球、T細胞と癌細胞とをIn vitroで条件下で共培養し、質量分析法とタンパク解析法を駆使して細胞間を移行する膜分子群を同定する。またこのうち、接着分子、ケモカイン、サイトカイン受容体および免疫機能分子に焦点を絞り、対側の細胞に移行した分子が実際に機能しうるか?をIn vitroの実験にて検証し、がんの転移現象、免疫逃避現象におけるトロゴサイトーシスの意義を明らかにする。
血液細胞から癌細胞への膜分子の移行により癌細胞が血液細胞の機能を獲得、癌の進展に影響を与えるという仮説のもと調査を行った。健常人の末梢血由来T細胞の細胞膜をPKH26にて蛍光染色し、GFP遺伝子導入ヒト胃癌細胞株(OCUM1)と共培養後、flowcytometryにより解析すると、1時間の時点からPKH26陽性の癌細胞を認め、6-9時間で98%の細胞が陽性となり、接触に伴う膜断片の移行(trogocytosis)が起きていると考えた。そこで、T細胞上の抗原提示分子複合体(免疫シナプス)関連分子に着目し、共培養後の癌細胞におけるCD11aの発現を調査した。その結果、4時間の共培養によりβ2 integrin, CD11a(陽性率18.7±3.8%, n=2)を認めた。CD11aは血液細胞全般に発現し、血管内皮上のligandに接着し血管外へ遊出する時に機能する分子であるが、通常癌細胞には発現を認めない。また、CD3抗体+IL-2存在下に7日間培養した活性化T細胞と12時間共培養すると発現がさらに亢進した(OCUM1上のCD11a陽性率: T細胞:12.6%, 活性化T細胞:65.9%)。OCUM1の血管内皮細胞(HUVEC)への接着を検討したところ、活性化T 細胞と共培養後の癌細胞は単独培養時と比較してHUVECへの接着が亢進したが、CD11a抗体の前処理により阻害された(接着率:単独培養2.0±0.64%、共培養6.3±2.0%、CD11a抗体処理2.3±1.4%)。癌細胞は活性化T細胞による障害を免れるとtrogocytosisによりCD11aを獲得することで、標的臓器の血管内皮への接着性が亢進し、血行性転移能が増強する可能性があると考えられた。
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Cancer Science
巻: - 号: 7 ページ: 2939-2950
10.1111/cas.15793
J Hepatobiliary Pancreat Sci 29(6):600-608.
巻: 29(6) 号: 6 ページ: 600-608
10.1002/jhbp.1085