研究課題/領域番号 |
21K08652
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55010:外科学一般および小児外科学関連
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
長田 拓哉 東邦大学, 医学部, 准教授 (40303242)
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研究分担者 |
田中 京子 東邦大学, 医学部, 教授 (10286536)
岡本 康 東邦大学, 医学部, 臨床教授 (80213990)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | アスナロ / レモングラス / レモンマートル / ツヨプセン / シトラール / 乳癌 / エッセンシャルオイル / CTC |
研究開始時の研究の概要 |
アスナロは日本固有の樹木で、その防虫効果や爽やかな香りから建築用資材として利用されてきた。我々はアスナロから抽出した精油成分(アロマオイル)に高い抗腫瘍効果が存在する事を見出し、さらにアスナロ精油中から抗腫瘍効果を 示す因子としてツヨプセンを同定した。今回の研究で、我々はツヨプセンを用いたアロマオンコテラピーの開発を行う。治療効果判定には、我々が開発し臨床応用されている血液浮遊癌細胞(CTC) 捕捉用マイクロチッ プを用いる。得られた結果より抗腫瘍アロマに関する特許を出願し、進行再発乳癌に対する新規アロマ治療の臨床応用を目指す。
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研究実績の概要 |
アスナロ精油を胃癌、食道癌、大腸癌、乳癌細胞と反応させたところ、いずれの細胞に対しても細胞死を誘導した。アスナロ精油を分画し、精油中の抗腫瘍因子としてツヨプセンを同定した。ツヨプセンはセスキテルペンであり、分子量が小さく蒸散成分は容易に飛散し得る。アスナロ精油の蒸散成分におけるツヨプセン 濃度を測定し、細胞死を誘導するためには100pg/ml以上の濃度が必要であることを確認した。また正常細胞(PBMC;正常人末梢血液中リンパ球細胞)にアスナロ精油 を投与した際には癌細胞と比較して細胞死が誘導されにくことを確認した。次にDARTS法を用いて、ツヨプセンが癌細胞内でPKM2と結合することを確認した。 PKM2は癌細胞における嫌気的解糖経路に働き、転移、増殖に必要な大量のエネルギーとその副産物である尿酸を産生するために重要な分子である。癌細胞にツヨプセンを反応させると尿酸の産生が低下することを確認した。これらの結果から、アスナロ精油中に存在するツヨプセンが癌細胞内でPKM2と結合し、癌のエネルギー産生経路をブロックすることにより、癌に細胞死を誘導することが明らかとなった。 アスナロ精油以外に癌細胞に細胞死を誘導する精油としてレモングラス、レモンマートル、リツエア、メリッサに着目して研究を行なった。そしてこれらの蒸散成分が乳癌細胞に対して強力な 細胞死誘導効果を示すことを確認した。これらの精油はいずれもcitralを多く含有しており、citral単体の蒸散成分に強い抗腫瘍効果が認められた。一方、citralはPBMCに対しても強い細胞毒性を示したのに対して、レモンマートルの細胞毒性は軽微であった。以上よりアスナロとレモンマートルは癌細胞に対する強い抗腫瘍効果と、正常細胞に対する弱い細胞毒性を示す事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
:アスナロ精油の抗腫瘍効果に関する研究はデータ解析がほぼ終了し、現在論文作成中である。本研究にてアスナロ精油に種々の癌細胞に対する抗腫瘍効果があることを明らかにした。またアスナロ精油の蒸散成分に抗腫瘍効果が存在する一方で、正常細胞に対する細胞毒性は低いことが確認された。アスナロ精油中の抗腫瘍因子としてツヨプセンを同定し、ツヨプセンが癌細胞内でPKM2と結合することを明らかにした。PKM2は癌細胞に特有な嫌気的解糖経路(ワールブルグ効果) に重要な因子であり、ツヨプセンがPKM2の働きを抑制し、癌細胞のエネルギー産生をストップさせることにより細胞死を誘導するメカニズムを明らかにした。精油の蒸散成分における抗腫瘍効果を示した論文は他に見られず、意義のある研究と考えている。 またアスナロ精油以外に抗腫瘍効果のある精油について検討した。そしてレモングラス、レモンマートル、リツエア、メリッサの精油に強力な抗腫瘍効果を認めた。さらにこれらの精油に共通の抗腫瘍因子としてシトラールを同定した。現在これらの結果をもとに論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
レモングラス、レモンマートル、リツエア、メリッサによる抗腫瘍メカニズムを明らかにする。レモングラスは抗菌作用を持ち、東南アジア諸国では食材としてよく用いられており、抗腫瘍効果に関する報告も見られている。またレモンマートルはオーストラリア、リツエアは中国、ベトナムが原産国であり、抗菌効果や抗ウイルス効果などについて報告されている。これらの精油に多く含まれているcitralはモノテルペンで分子量が小さく、飛散しやすい成分である。これまでにcitralが抗腫瘍効果を持つことを確認しており、citralの抗腫瘍メカニズムについて研究を行う予定である。また各精油中にはシトラールの細胞毒性を抑制する因子が存在すると考えられることから、これらの因子を同定し、安全な創薬に関する研究を進めたいと考えている。
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