研究課題/領域番号 |
21K09238
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
加藤 裕幸 東海大学, 医学部, 准教授 (40348678)
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研究分担者 |
渡辺 雅彦 東海大学, 医学部, 教授 (40220925)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 脊髄損傷 / 二次障害 / 小胞体ストレス / エキセナチド / オリゴデンドロサイト前駆細胞 / RNAシーケンシング / GLP-1受容体作動薬 / アポトーシス |
研究開始時の研究の概要 |
脊髄損傷後のGLP-1受容体作動薬投与で神経細胞のアポトーシスの抑制と後肢機能の改善を確認しており,その機能改善の機序として小胞体ストレス応答の増強や,マクロファージ極性の変化を報告してきた.本研究では,次世代シーケンサーを用いて損傷脊髄から抽出したRNAの塩基配列情報を取得し,GLP-1受容体作動薬により変化する遺伝子群を特定することで,脊髄損傷後の二次障害を軽減する詳細なメカニズムを解明する.
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研究実績の概要 |
GLP-1受容体作動薬エキセナチドの投与により小胞体ストレスに対し細胞保護的に働くGRP78が増加し, pro-apoptotic transcription factorであるCHOPが抑制されたことから,エキナセチドは小胞体ストレス応答を増強しアポトーシスを抑制することで下肢運動機能を改善することを報告した.エキセナチド投与により抗炎症/組織修復に関与するM2マクロファージが有意に増加し,炎症/組織傷害に関連するM1が損傷後に有意に低下していたことから,エキセナチドがマクロファージの極性転換を誘導することも確認した.更に RT-PCRによりTNFα ,IL-1β等の炎症性サイトカインが減少し,IL-4,IL-10の抗炎症性サイトカインが上昇することを確認した. 血液脳脊髄関門に対する検討を行うために,損傷後にEvans Blueを頚静脈内に投与して脊髄内に析出した色素量を分光光度法で測定した.損傷後48時間で色素漏出がエキナセチド投与群で有意に低く, tight JunctionタンパクZo-1, claudin-5の発現がエキセナチド群において有意に高かった. エキセナチド投与群において損傷後14日のLFB染色で髄鞘が有意に保護されており,オリゴデンドロサイト前駆細胞の数が対照群より有意に高かった.オリゴデンドロサイトへの分化や再髄鞘化を確認するため,損傷後24時間と48時間にBrdUを腹腔内投与し,損傷後7日,14日,28日の脊髄でBrdUに標識されたオリゴデンドロサイト前駆細胞とオリゴデンドロサイト数の定量を進めている.また並行して,RT-PCRによる小胞体ストレスに関わるsignal pathwayを検討するため,損傷後24時間の脊髄をエキセナチド投与群・対照群から摘出し,RNAシーケンシングを実施し,その結果を解析中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エキセナチドによる血液脳脊髄関門の保護効果を確認するために,損傷後にEvans Blueを頚静脈内に投与し,脊髄内に析出した色素量を分光光度法で測定して,損傷後48時間でEvans Blue漏出がエキナセチド投与群で有意に低いことを確認した.その機序を検討するためにTight Junctionに関わるタンパクをwestern blotで定量したところ,損傷後48時間でエキセナチド群において,Zo-1, claudin-5の発現が有意に高値を示した.現在,他のTight junctionタンパクのRT-PCR検査を行っている.更には免疫染色でTight junctionタンパクの発現を調査し,エキセナチド群と対照群における発現を比較しようとしているが免疫染色は難易度が高く,その定量化に予定より多くの時間を要している. 損傷脊髄においてエキセナチド投与がオリゴデンドロサイト前駆細胞のアポトーシスを抑制し,生存した前駆細胞からオリゴデンドロサイトが分化して再髄鞘化に関わることをBrdUによるトレーシングで確認を試みている.動物実験を終えて組織切片も作成したが,BrdUの免疫染色が安定せず,定量化に至っていない.抗体を変更し,抗原賦活化処理を追加して効果を検討しており,BrdUの免疫染色が安定したら,後索におけるBrdU陽性細胞の定量化を行う計画である. 並行して,脊髄損傷後のエキセナチド投与がどのようなsignal pathwayを介して小胞体ストレス応答を増強するのかを解明すべく,RNAシーケンシングを実施した.こちらの実験も動物実験とサンプル作成を終え,外部機関に発注して解析結果が届いたところである.対照群と比較して,エキセナチド投与群において発現が増強・減弱している遺伝子が網羅的に羅列されており,変化した遺伝子群を機能別にグループ化し,その意味合いを現在解析している.
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今後の研究の推進方策 |
主な動物実験は終えており,最終年度は現在まで蓄積してきたサンプルの処理と解析に集中する.上記と重複するが,主に免疫染色の工程が残存しており,本学の研究支援センターの協力を仰いて作業を進める. 脊髄損傷後,血液脳脊髄関門の破綻が二次障害の拡大に寄与することが知られている.エキセナチド投与により血液脳脊髄関門の破綻が抑制されることをEvans blueを用いた実験で確認しており,tight junctionタンパクの維持が関与すると考えられる.安定した免疫染色が得られるようになれば,各tight junctionタンパクの定量化を試る.並行して,western blotで確認したタンパクの変化を,RT-PCRを用いてmRNAレベルで確認する. エキセナチド投与で小胞体ストレス応答能が増強され,アポトーシスを免れたオリゴデンドロサイト前駆細胞がオリゴデンドロサイトに分化し,再髄鞘化に関わることをBrdUトレーシングで確認する.研究支援センターの協力の下,新たな抗体と抗原賦活化処理を駆使してBrdU陽性細胞を確認し,最終的には電子顕微鏡でBrdU陽性の髄鞘を確認することを目指す. RNAシーケンシングで得られたデータの解析を開始したところ,小胞体ストレス意外にも細胞恒常性に関わるメカニズムが広く影響を受けることが示唆されている.中にはミトコンドリアのストレス応答機構の反応が見られることから,エキセナチドが細胞恒常性維持機構に広く関わることが疑われる.その影響を更に解析するための実験も検討する.
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