研究課題/領域番号 |
21K09391
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56030:泌尿器科学関連
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
栗原 靖之 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80202050)
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研究分担者 |
湯村 寧 横浜市立大学, 附属市民総合医療センター, 准教授 (30522023)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 男性不妊症 / ミトコンドリア / マウス / ヒト / 電子伝達系 / ATP生産制御 / 精子 / 不妊症 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者を含めた多くの研究により、男性不妊症の約8割を占める造精障害ではミトコンドリア電子伝達系(Mt-ETC) の機能不全が起こっていることが示されている。この申請課題は、精子形成後期に特異的に発現するETC複合体Ⅳタンパク質(Coxfa4l3)の欠損(KO)マウスを、世界で初めての男性不妊症疾患モデル動物として利用して、男性不妊症が起こる分子メカニズムを分子病理学的アプローチで迫り、この治療法の開発に貢献する。さらに、男性不妊症の有望な検査薬候補としてETC複合体Ⅳタンパク質を使った簡便な検査法の確立を目指す。これにより、多くの不妊に悩む人達に貢献したい。
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研究実績の概要 |
我が国では通常のカップルのうち約15%が不妊症で、その半数が男性側に原因がある。男性不妊症の治療には生活習慣の改善、ホルモン療法、漢方薬やビタミンなどの薬物投与と精索静脈瘤などの外科的手術、人工授精などが実施されているが、必ずしも期待される効果が得られていない。不妊治療は男性側にも女性側にも大きなコストやストレスがかかるので不妊症は社会問題として注目を浴びている。 以前の研究により、男性不妊症の約8割を占める造精障害とミトコンドリア電子伝達系(Mt-ETC) の機能不全との相関が想定されているが詳細は明らかでない。我々は精子形成後期に特異的に発現するETC複合体Ⅳタンパク質(Coxfa4l3)の欠損(KO)マウスを、世界で初めて確立した。このマウスは表現型として精子形態異常を持つことから男性不妊症疾患モデル動物として利用できると考えた。 そこで、「精子や精子細胞はCOXFA4L3(Coxfa4l3)を使ったETCでどのようにATPを生産しており、その機能不全は男性不妊症とどう関わるかを明らかにする」ことを目標にKOマウスと正常マウスで精子および減数分裂後の精子細胞のMt-ETCのサブユニット構成とその活性、ATPとROS生産能を比較して、精子形成期のETCの特殊性を明らかにし、男性不妊症との関わりを明らかにすることにした。さらにその知見をもとに男性不妊症のバイオマーカーとしてCOXFA4L3が有用かどうかを検証したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【マウスのCoxfa4l3 KOマウスの解析】本年度、このマウスを使ってETC複合体IVの活性と精子運動性を野生型マウスと比較し、Coxfa4l3がミトコンドリア活性や精子機能に及ぼす影響を解析した。当初、以下の項目を実施すると計画した。 【精巣生殖細胞の分化段階ごとの安定的分画方法の確立】精巣生殖細胞を核特異的蛍光色素Hoechst33342で染色し、フローサイトメーターで安定に分画分取し、Mtタンパク質を精製するプロトコルを完成した。ここで、生殖細胞の分画安定性を高める要因は、蛍光染色の際の色素量と細胞数の比であることがわかり、目的を達成した。 【Blue-Native PAGEによるETC複合体の超複合体と活性解析】BN-PAGEでマウス精巣抽出物を使ってC IV活性を定性的に測定したところ、野生型マウスではCoxfa4l3が発現を開始する減数分裂期以降でC IV活性が上昇するのに対し、KOマウスでは活性上昇が見られなかった。また、精子運動性解析から、ATP供給源として解糖系を阻害すると野生型マウスに比し、KOマウスでは精子運動性の低下が見られた。これらのことから、Coxfa4l3がC IV活性を上昇させる一つの要因で、精子運動性に影響を及ぼすことが示唆され、当初目標を達成した。 【ヒト男性不妊症検査薬作製に向けたモノクローナル抗体作製と評価】ヒト精液試料には精子以外に白血球などの体細胞成分が含まれるので、精子特異的なATP生産に関わるタンパク質を検出する解糖系GAPDSに対するモノクローナル抗体を樹立した。しかし、これらを使ったヒト精子の予備的研究により、さらに多くのETC複合体タンパク質に対する抗体を作製する必要があることがわかり、当初目標は達成したが、本来の目的の達成は十分ではなかった。 以上より、評価をおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画通り今年度は以下の項目の研究を推進する。 【Coxfa4l3 KOマウスの精子と精子細胞のMt活性の評価】Mt活性障害(ATP、ROS量、膜電位、複合体Ⅰ~Ⅳ活性、脂質過酸化等)を、Coxfa4l3 KOマウスと野生型マウスの精子と分画した精子細胞で調べ、遺伝子欠損によるMt活性低下がみられるかを定量的指標で明らかにする。 【マウス体細胞・臓器と精子細胞のETC構成とMt活性の比較】精巣以外の臓器細胞から抽出したタンパク質を使って、精子形成後期細胞と比較して、精子形成期の特殊環境下でのATP生産機構の特殊性を明らかにする。先に述べたように予備的調査で減数分裂期以降C IV活性が亢進することがわかっており、この亢進が生殖細胞だけで見られることか、体細胞でも見られるのかを明らかにしたい。 【ヒト精子でのCOXFA4L3タンパク質の発現と男性不妊症との相関】ヒト精子からタンパク質を抽出し、抗GAPDS抗体と抗COXFA4L3抗体を含めた抗ヒトETCタンパク質抗体を使って、精子のETCタンパク質の発現量をウエスタンブロッティングで比較する。そして、この発現量の差と被験者の医療情報との相関度を求める。予備的調査の結果、特発性男性不妊症患者の精子でATP生産に関わるタンパク質の発現が低下していることが観察された。従って、男性不妊症とATP生産系の機能異常の間に関連性があることが示唆された。
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