研究課題/領域番号 |
21K09426
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56030:泌尿器科学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
武本 健士郎 広島大学, 病院(医), 医科診療医 (70887124)
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研究分担者 |
小畠 浩平 広島大学, 病院(医), 助教 (10749998)
亭島 淳 広島大学, 医系科学研究科(医), 専門研究員 (20397962)
池田 健一郎 広島大学, 医系科学研究科(医), 助教 (50624863)
神沼 修 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (80342921)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 腎細胞癌 / 酸化ストレス / 上皮間葉系移行 / 薬剤抵抗性 |
研究開始時の研究の概要 |
応募者らは血清炎症マーカー高値を呈する転移性腎細胞癌患者では抗PD-1抗体療法の治療効果が低下する事を報告したが、その分子機構は不明であった。そこで、炎症における酸化ストレスに着目し、公共データベースを用いた解析を行ったところ、BACH1の高発現が治療奏効率を有意に低下させる事を発見した。BACH1は抗酸化酵素の発現を抑制的に制御することから、その発現が転移性腎細胞癌における炎症と抗PD-1抗体抵抗性を結びつける重要な要素であると考えた。本研究は腎細胞癌における炎症の背景因子としてのBACH1の機能解析および、抗PD-1抗体療法に対する抵抗性獲得機序の解明を目的とする。
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研究実績の概要 |
腎細胞癌(renal cell carcinoma, RCC)は酸化ストレスが発癌危険因子であり酸化ストレス応答に関与する転写因子の一つであるBTB domain and CNC homolog 1 (BACH1)に着目し研究を進めてきた。臨床検体を用いたBACH1の機能解析では、BACH1陽性群では有意にhigh stageであり、生存率も低いことが判明し、BACH1陽性群では血清炎症性マーカーであるCRPおよびリンパ球好中球比が有意に高値であった。この結果は臨床検体における炎症との相関を示唆するもであり、これまで他に報告がなく新たな知見となった。 続いて、腎癌細胞株(786-O, Caki-1, ACHN)においてBACH1の分子機能解析(遊走能・浸潤能評価)を行った。腎癌細胞株においてBACH1は浸潤能および遊走能を制御していることが明らかになった。一方で増殖能においてはin vitroではBACH1発現と相関が認められなかった。さらに、下流の分子である抗酸化酵素HO-1を抑制性に制御していることも明らかとなり、BACH1は腎癌において抗酸化酵素HO-1を抑制することで炎症を惹起しその悪性度亢進に寄与している可能性が示唆された。 生体内でのBACH1の腫瘍活性を解析する目的でマウスモデルを用いて評価した。まず、マウス腎癌細胞株であるRenCaのBACH1 CRISPR-KO株を樹立し皮下移植を行った。in vitroでの結果とは反してBACH1抑制にて増殖能の低下を認めた。またxenograft modelにおいては786-OのBACH1過剰発現株を皮下移植したところ、腫瘍の有意な増大を認めた。腫瘍活性のメカニズムを解明したところ、上皮間葉系移行関連遺伝子の活性化を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化ストレス応答因子BACH1の腎細胞癌における報告は世界で初めてである。現時点で、臨床検体を用いた解析、腎癌細胞株(786-O, Caki-1, ACHN)を用いた分子機能解析、その下流の分子HO-1との相関、マウスモデルを用いた腫瘍活性の評価すべてを現時点で終了している。また、さらなる腫瘍活性メカニズムとして上皮間葉系移行(EMT)の関与を想定し、EMT関連遺伝子の発現評価をマウスモデルにて採材した腫瘍において解析し、EMTの活性化が生体内における腎細胞癌進展に大きく関わっていることも解明した。 また、酸化ストレスの指標である、GSSG/GSH ratioもBACH1発現と相関していることを解明し、腎細胞癌における酸化ストレス関連腫瘍活性の解明を行った。 以上より現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現時点にて、臨床検討・細胞株での分子機能解析・マウスモデルを用いた増殖能評価を完了している。これまでの実験系においてBACH1発現レベルはin vitroにおいては増殖能に関与しなかったにも関わらずin vivoでは増殖能に有意に相関が認められた。この点においては他の癌腫での報告と一部相違が認められ、腎細胞癌における特異的な性質が関与していると思われる。具体的には腎細胞癌はhypervascularな腫瘍であり、新生血管等を反映した腫瘍微小環境が腫瘍の進展に深く関与している。このため、BACH1と腫瘍微小環境・血管新生との関連性についてさらなる追加研究を行うことが必要不可欠であると考える。具体的には、再度マウスモデルを作成し、CD31陽性新生血管の評価、採材腫瘍におけるVEGF-C発現レベルの評価などを予定している。これらの機構の解明にて、酸化ストレスが腎細胞癌において腫瘍活性に関与するメカニズムの解明につながると考えている。
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