研究課題/領域番号 |
21K09540
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56040:産婦人科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
最上 晴太 京都大学, 医学研究科, 講師 (40378766)
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研究分担者 |
近藤 英治 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 教授 (10544950)
千草 義継 京都大学, 医学研究科, 助教 (80779158)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 前期破水 / 羊膜 / 創傷治癒 / 絨毛膜下血腫 / 上皮間葉転換 / マクロファージ / 治癒・再生 |
研究開始時の研究の概要 |
前期破水は早産の主要な原因である。早産は時に出生児に合併症・後遺症を残し、医学的・社会的に大きな問題である。本研究では、①ヒト羊膜において破水前に微細な損傷→修復という細胞外マトリックスのリモデリングが行われ、恒常性の維持機構があるか、②胎仔マクロファージ欠損マウスを用いて、自然免疫による羊膜の修復機構をin vivoで解析、③細胞外マトリックスによる前期破水の治療法の探索を行う。このように前期破水を「卵膜の恒常性の破綻」という新たな観点からとらえて、早産の予防・治療法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
1.羊膜のリモデリングと恒常性維持:現在、プロスタサイクリン(PGI2)による羊膜修復機構について解析を進めている。ヒト破水症例では破水部の羊膜間葉細胞でCOX-2発現が増加し、さらにPGI2 synthaseとPGI2受容体が強発現していた。マウス前期破水モデルでCインドメタシン、あるいはプロスタサイクリン受容体阻害薬を投与して破水させると、羊膜の修復が阻害され、逆にプロスタサイクリン受容体アゴニストのIloprostを破水部に投与すると、創傷治癒が促進されることを発見した。つまりPGI2が羊膜の再生・治癒に重要であることを新たに発見した。
2. 自然免疫による羊膜の修復機構:ヒトの感染を伴わない前期破水の破水部羊膜では、CX3CR1陽性のマクロファージが集積しており、これらはCD206陽性のM2型マクロファージであった。マウス前期破水モデルでも同様にCX3CR1陽性マクロファージが破水部羊膜に観察され、羊膜上皮細胞では上皮間葉転換が見られた。そこでタモキシフェン誘導型Cre/loxPシステムによる胎仔Cx3cr1陽性マクロファージのCSF1受容体(Csf1r)を欠損させるコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作成したところ、胎仔マクロファージ欠損マウスでは羊膜の治癒が悪化し、羊膜の上皮間葉転換が消失した。ヒト羊膜上皮細胞と胎盤マクロファージとを共培養すると、マクロファージから産生されたTGF-βが羊膜上皮細胞のSmad3をリン酸化し上皮間葉転換を生じた。以上より破水時にはM2型マクロファージが破水部羊膜に遊走し、羊膜上皮細胞のTGF-β-Smad3 pathwayを活性化して上皮間葉転換を促進し、羊膜上皮細胞を遊走させ治癒させていることを解明した。本結果はScience Signaling誌に発表され、またScience誌のResearchの冒頭でも紹介された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.羊膜のリモデリングと恒常性維持:PGI2による羊膜修復機構については、羊膜上皮細胞と間葉細胞との共培養を行い、ex vivoの羊膜モデルを構築した。このモデルでtranswell migration assayを行うと、羊膜上皮細胞の存在下では間葉細胞の遊走が正常に生じるが、羊膜上皮細胞が不在であると羊膜間葉細胞の遊走は著明に減少した。つまり上皮細胞から産生される何らかの因子が羊膜間葉細胞の遊走に重要であることが示唆される。さらにPGI2阻害剤下では羊膜間葉細胞の遊走が阻害された。つまりPGI2は羊膜間葉細胞で産生され、autocrine, paracrineに羊膜間葉細胞自身の遊走を促進することで、羊膜の再生を促すことが示唆された。
2. 自然免疫による羊膜の修復機構:本テーマでは、子宮内出血時の羊膜の再生機構を解析している。ヒト絨毛膜下血腫症例では羊膜へのマクロファージ遊走が増加し、主にM2型マクロファージが優勢であった。さらに羊膜間葉細胞層では、α-smooth muscle actin陽性の筋線維芽細胞(myofibroblasts)が多数出現していた。そこで、ヒト単球系細胞株であるTHP-1細胞を、PMA投与後にIL-4, IL-13で処理してM2型マクロファージに分化させ、これをヒト羊膜間葉細胞と共培養すると、羊膜間葉細胞のα-smooth muscle actinの遺伝子発現が増加した。つまり絨毛膜下血腫などの子宮内出血では、M2型マクロファージが羊膜近辺に遊走し、これが羊膜間葉細胞を筋線維芽細胞へと変化させることが示唆された。この因子が何であるか、また筋線維芽細胞が増加すると、その結果羊膜に何が生じるのか(繊維化が創傷治癒に向かうのか)を、現在検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
1. 羊膜のリモデリングと恒常性維持: 現在、プロスタサイクリン受容体(IP)欠損マウスを用いてマウス前期破水モデルを作成し、プロスタサイクリンによる羊膜の創傷治癒機構の解析を行っている。IP KOマウスのヘテロ型のオスとヘテロ型のメスを交配すると、胎仔は野生型、ヘテロ型、KO型の3種類となり、この卵膜(胎仔由来)を破水、ジェノタイピングを行い、卵膜の創傷治癒を比較する。そして免疫蛍光染色と定量PCR法により、PGI2が羊膜の治癒・再生を促進する機構(おそらく細胞遊走に関わる因子)をこのKOマウスを用いて解析する。
2. 自然免疫による羊膜の修復機構:マウス血液を麻酔・開腹下に卵膜と子宮筋との間に局所投与し、子宮内出血モデルを作成する。本マウスで羊膜の損傷から治癒の過程を組織的に観察する。出血部にマクロファージが遊走するか、また羊膜間葉細胞の筋線維芽細胞への変化がみられるか観察する。あわせて羊膜上皮細胞の上皮間葉転換が生じるかも確認する。これらが確認できれば、我々の作成したマクロファージ欠損マウスを用いて、同様に子宮内出血モデルを作成・解析し、マクロファージが子宮内出血の際に羊膜へ及ぼす影響、特に羊膜の治癒との関係を明らかにする。一方、子宮内感染時の羊膜の修復を解析するため、妊娠マウスに低濃度LPSを投与して経時的に解析し、羊膜の損傷と修復過程、特にマクロファージとの関係を解析する。
3. 細胞外マトリックスによる前期破水の治療法の探索:申請者はこれまで、マウス前期破水モデルを用いて、破水部位にハイドロジェルを投与すると、羊膜の治癒率が大幅に改善するという予備データを得ている。このハイドロジェルによる羊膜再生のメカニズムを探る。具体的には、M2型のマクロファージの局所での分布、羊膜間葉細胞からの細胞外マトリックスタンパクの産生とリモデリングなどについて解析していく。
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