研究課題/領域番号 |
21K09848
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57020:病態系口腔科学関連
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研究機関 | 松本歯科大学 |
研究代表者 |
今村 泰弘 松本歯科大学, 歯学部, 講師 (00339136)
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研究分担者 |
三好 智博 大分大学, グローカル感染症研究センター, 講師 (60534550)
雪田 聡 静岡大学, 教育学部, 准教授 (80401214)
十川 紀夫 松本歯科大学, 総合歯科医学研究所, 教授 (30236153)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 唾液蛋白質 / ヒスタチン / 唾液タンパク質 / ステロイド薬 / ウイルス |
研究開始時の研究の概要 |
唾液蛋白質ヒスタチンは抗菌作用を有するが、薬物の作用に及ぼすヒスタチンの影響は不明である。アレルギー性疾患等に対する免疫抑制薬(ステロイド薬等)の使用増加に伴い、副作用の発現が問題視されている。一方、新型コロナウイルス感染症の重篤な肺炎に対し、治療薬としてステロイド薬(デキサメタゾン)が認定された。本研究では、ヒスタチンによる免疫抑制薬の効果への影響や新型コロナウイルス誘発性の炎症に対する作用(効果)を明らかにする。
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研究実績の概要 |
歯周病・カンジダ症等の発症・進行に影響を及ぼす要因には、免疫抑制薬の歯肉増殖症や易感染性といった副作用がある。また、唾液成分の質的・量的変化も上記疾患と関係する。唾液蛋白質ヒスタチンは歯周病原菌やカンジダ菌等への抗菌活性をもつ。これまでに我々は、ヒスタチンによる歯肉線維芽細胞の増殖・生存促進効果や熱ショック蛋白質(HSP)のToll様受容体(TLR)を介した炎症性サイトカイン産生の抑制効果を明らかにした。 グルココルチコイド受容体(GR)は免疫抑制薬デキサメタゾン(DEX)が結合するとHSPを解離し、転写因子として働く。ヒスタチンはHSPと結合するため、GR-HSP複合体形成とGRの機能に影響を与える可能性がある。これまでに、ヒスタチンはDEXのGR複合体解離をより一層促進することが示された。そこで、ヒスタチン存在下でDEXによるGRの転写活性を調べたところ、ヒスタチン非存在下よりもその活性が上昇した。また、炎症性サイトカインIL-6のプロモーター活性に対するDEXの影響を調べたところ、量依存的にその活性が抑制され、ヒスタチンはこれを更に抑制することが明らかとなった。従って、ヒスタチンはGRによる正負の転写制御をどちらも促進することが示唆された。更に我々は、免疫抑制薬FK506の結合蛋白質FKBPの量がヒスタチンにより増大することを示した。FK506は量依存的に転写因子NF-ATの活性化を抑制するが、今回、ヒスタチンはこれを更に抑制することが判明した。これは、ヒスタチンがFK506-FKBP複合体を更に増加させ、最終的にNF-ATの活性化を抑制すると考えられる。 新型コロナウイルスの構成成分による誘発性炎症を解明する上で、その構成成分の刺激によるTLRを介した転写因子NF-κBの活性化を確認した。この現象に対するヒスタチンの影響を詳細に解析していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、唾液蛋白質ヒスタチンによる免疫抑制薬(ステロイド薬やFK506など)の作用への影響、及び新型コロナウイルス構成成分による誘発性炎症への影響を解明する。これらにより、唾液蛋白質の新規機能を明らかにしていく。 ヒスタチンはDEXによるGR-HSP複合体の解離を促進し、GRの転写因子としての活性化を更に引き起こすことが明らかにされた。また、ヒスタチンはDEXによる炎症性サイトカインIL-6の転写抑制を更に促進することが示唆された。以上から、ヒスタチンはグルココルチコイドの作用を増強させる生理活性物質であると考えられる。また、ヒスタチンはFK506によるNF-AT活性化の抑制を更に促進することが明らかとなった。このことは、ヒスタチンが結果としてFK506の作用を増強させる唾液蛋白質であることを示している。これらの知見は未だ解明されていない唾液蛋白質の新規機能を提唱し始めており、本研究の目的達成に近づいている。また、新型コロナウイルスの構成成分によるTLRを介したNF-κBの活性化を確認した。この一連のシグナル伝達経路に対する唾液蛋白質の影響や機能を解析することにより、本研究の目的解明に繋がる。 以上から、本研究はおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、免疫抑制薬の効果・作用に影響を与える唾液蛋白質の新規機能を解明すること、また、新型コロナウイルス構成成分による誘発性炎症に対する唾液蛋白質の影響を明らかにすることである。ヒスタチンは、1)GRと複合体を形成している蛋白質の解離を促進することにより、GRの転写因子としての働きを増強する、2)DEXによる炎症性サイトカインIL-6の発現抑制を更に促進する、3)FK506によるNF-ATの転写因子としての活性化抑制を更に促進することが示唆された。これらの知見に関して、細胞内シグナル伝達などの観点から詳細に調べ、唾液蛋白質の更なる新規機能の解明を目指し、本研究の目的を達成するように努めていく。 また、新型コロナウイルスの構成成分によるTLRを介したシグナル伝達経路の活性化が確認され、誘発性炎症に関与する可能性が示唆された。そこで唾液蛋白質が実際、この誘発性炎症を抑制し得るのかどうかを解明していく。これにより、新型コロナウイルスに対する唾液蛋白質の新しい機能の一端を明らかにする。
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