研究課題
基盤研究(C)
あらゆる癌に高発現し細胞の不死化に大きな影響を与えているテロメラーゼを標的とした抗癌剤の開発は、既存の薬物と比べて副作用が少なく癌特異的な作用を発揮することが期待されている。連携研究者である竹中らはアントラキノン(AQ)の置換基を連結させた環状AQ(cAQ)の合成に成功した。4本鎖DNA構造に特異的に結合しテロメラーゼの作用を阻害すると考えられるcAQはin vitroとin vivoの系で有効性と安全性が確認されつつある。本研究では薬理作用や薬物動態について詳細な検証を進めながら、一般毒性試験も実施して臨床応用に繋がる基礎データを取得することを研究計画の核としている。
申請者らによるこれまでの研究から、cAQ や cNDI に関して細胞増殖抑制やアポトーシス誘導効果が正常細胞と比較して癌細胞に対し高い特異性を示し、さらに cAQ ではマウスを用いた実験で2週間程度の連続投与では有害作用を認めないという癌治療薬として有望な結果を得ている。一方、作用機序については試験管内実験で確認されたテロメラーゼ活性の抑制効果のみによるのか不明であること、高用量・長期間投与時の有害作用発現の有無やマウスより大型の動物における安全性について不明である。これらを踏まえて本申請期間中は cAQ の新規癌治療薬としての臨床試験への展開を目指し、基盤となる作用機序解明につながる基礎データの取得と動物へ高用量・長期間投与時による有害作用発現の有無に関する知見を得る。新規化合物(以下cAQ)の癌細胞に対する作用特異性を検討するために、口腔扁平上皮癌由来の細胞株(以下SAS)およびヒト正常口腔ケラチノサイト細胞(以下HOK)を用いて実験を行った。なお、対照としてシスプラチン(以下CDDP)を用いた。方法は5×10の3乗個のSASならびにHOKを化合物の存在下で96well Plateに播種し、48時間培養後にCell Counting Kit-8(Dojindo Kumamoto)を用いて生細胞数を測定した。新規化合物はHOKと比べてSASの細胞増殖をより低濃度で抑制していたのに対して、CDDPはHOKをSASと同程度抑制していた。つまり、今回使用した新規化合物はCDDPと比較して癌細胞に対する作用特異性を示し、正常細胞への影響が少なくなっていた。
2: おおむね順調に進展している
新規化合物の癌細胞に対する作用特異性について正常細胞を用いて比較し確認することが出来た。
cAQ 処理細胞を用いた網羅的遺伝子発現解析と標的候補分子の挙動確認:異なる時間・濃度の cAQ で処理した癌由来細胞株における発現遺伝子について、未処理細胞における発現遺伝子との差異を網羅的に解析する。その際、環状構造とする置換基をもたない AQ などもコントロールに加えて、DNA G4 構造への結合特異性の向上の効果の検討も考慮する。得られた遺伝子発現変化のプロファイリングから標的遺伝子や影響を受けるシグナル経路の候補を抽出し、詳細な作用機序解明につながる以後の研究の方向性を決定する。
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Bioorg. Med. Chem. Lett.
巻: 50 ページ: 128323-128323
10.1016/j.bmcl.2021.128323