研究課題/領域番号 |
21K12206
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63010:環境動態解析関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高部 由季 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (80635839)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 細菌群集構造 / 光合成細菌 / ゲノム / 光エネルギー / 細菌 / 海洋炭素循環 / 酸素非発生型光合成 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、「光合成細菌」というこれまで海洋生態系の枠組みの中では注目されてこなかった細菌にスポットを当てる。本研究で注目する酸素非発生型好気性光合成細菌 (aerobic anoxygenic phototrophic bacteria, AAnPB) は、光エネルギーを利用し、細胞増殖と生残を強化していることが予想される。AAnPBが「光を使って生き残る」ことにより、海洋生態系内の炭素循環効率の上昇に寄与していることを実証することで、従来の海洋炭素循環像のパラダイムシフトを導くことを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、海洋における酸素非発生型好気性光合成細菌(Aerobic anoxygenic phototrophic bacteria, 以下AAnPB)の光利用戦略に焦点を当て、AAnPBが実海洋環境中で光を利用することで「元気に」増殖し、「長く」生き残っていることを実証することを目指している。海洋環境中で普遍的かつ時に高率で存在している AAnPBの光利用戦略を明らかにすることは、海洋全体の有機物循環量と循環効率を正しく見積もる上での科学的基盤となる。 昨年度は新型コロナウイルス感染症流行により、当初予定していた現場観測を全く実施することが出来なかったが、今年度は実験予定海域であった愛媛県愛南町マダイ養殖いけすにおいて、通年にわたり小規模擬似現場培養実験及び現場観測を頻回で実施した。そこで得た海水試料を用いて、そのDNA抽出を行い、16S rRNA遺伝子を標的としたアンプリコンシーケンス解析から、AAnPBを含む全細菌群集構造の動態を高解像度で解析した。結果として、本研究海域において、AAnPBを含むRhodobacteraceae科の細菌グループが、観測期間中普遍的かつ時に高率で存在していること、特に高温で強日射、さらに有機物負荷の高まる夏季において、その優占度が顕著に高まることを発見した。また、夏季に実施した小規模擬似現場培養実験では自然光下と遮光下の2実験区を設けたところ、光条件の違いによる細菌群集構造の動態傾向に大きな違いは見られなかった。しかしながら、自然光下と遮光下の両実験区においてRhodobacteraceae科の細菌は、培養後に全細菌群集に対する優占度が2倍以上に激増し、その優占度は最大で30%を超えた。このことは、本海域における有機物循環量と循環効率を考える上でRhodobacteraceae科の細菌が極めて重要なグループである可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の本研究課題の進捗状況としては、昨年度に実施を予定していた中規模及び小規模擬似現場培養実験のうち、小規模擬似現場培養実験及び現場観測は愛媛県愛南町マダイ養殖いけすにおいて、夏季に集中して昨年度実施予定よりもより頻回で行うことが出来た(当初、2022年5,7,8,11月=>変更後、2022年5,6,7,8,10,12月)。そこで得られた研究試料を用いた実験、解析は順調に進めることが出来、予定通りに研究データを得た。その結果として、AAnPBを含むRhodobacteraceae科の動態に注目すべき特徴が見られ、本課題において、着目すべき細菌グループは本科に属することが明らかとなった。来年度は、今年度の解析に用いた研究試料を使って、AAnPB群集に特化したより詳細な構造解析を実施予定である。 一方、今年度に実施を予定していた岩手県大槌湾における中規模擬似現場培養実験については、実施することが出来なかった。現在、来年度の実施に向け、実験海域である岩手県大槌湾における現場観測およびそこでの実験に関わる共同研究者と、実施日程の調整や実施内容について詳細な話し合いを進めている。 以上の状況を踏まえて、本課題の現在までの進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と判断している。 また、昨年度、愛媛県愛南町マダイ養殖いけすからのAAnPB分離株Jannaschia sp. AI_62のゲノム解読およびその生理性状試験を行ったが、今年度の研究成果として本海域の細菌群集動態解析から、本株が含まれるRhodobacteraceae科が本海域の有機物循環において重要なグループであることが示唆された。このことにより、来年度以降、より詳細なAAnPB群集動態の解析を進める上での科学的基盤として、Jannaschia sp. AI_62のゲノムデータ及びその生理性状試験結果の有用性が高まった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、実験予定海域であった愛媛県愛南町マダイ養殖いけすにおける小規模擬似現場培養実験及び現場観測を実施し、結果として、AAnPBを含むRhodobacteraceae科の細菌グループが本海域における有機物循環量と循環効率を考える上で重要である可能性が示唆された。今年度解析を進めた、全細菌群集を標的とした16S rRNA遺伝子に加えて、来年度以降は同試料を用いて、光合成細菌群集のみに標的を絞った解析を行うために、光合成関連遺伝子pufMでの同様の群集構造解析を進める。これにより、AAnPB動態に関してより詳細な細菌グループを特定することが出来る。 また、今年度の研究結果から、愛媛県愛南町マダイ養殖環境において、夏季の高温、強日射環境下において、Rhodobacteraceae科の優占度が高いことが明らかとなった。本科はAAnPBを含む細菌グループであり、その多くがカロテノイドを有する。カロテノイドは、光からの細胞の保護作用、抗酸化作用を有する色素である。昨年度、本海域から分離培養した本科細菌であるJannaschia sp. AI_62株のゲノム解析および新種記載試験を進めたが、本株のゲノムデータ及び生理性状試験結果を踏まえた上で、カロテノイドに着目した色素分析を進め、保有カロテノイド種の光保護、抗酸化作用を調べることにより、本科細菌の高温、強日射環境下での生残戦略のメカニズム解明に着手する。来年度、研究代表者は所属研究機関を変更するが、変更先の所属機関である日本女子大学はカロテノイドの光保護、抗酸化作用についての研究設備が充実している。本課題を深化させるために、カロテノイドに注目し、AAnPBの生残に関与するメカニズム研究を展開する。 加えて、当初予定をしていた岩手県大槌湾における中規模擬似現場培養実験を実施し、より長期間かつ大規模な細菌群集構造動態の追跡実験を実施する。
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