研究課題/領域番号 |
21K12332
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64040:自然共生システム関連
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研究機関 | 公益財団法人山階鳥類研究所 |
研究代表者 |
岩見 恭子 公益財団法人山階鳥類研究所, その他部局等, 研究員 (90446576)
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研究分担者 |
富田 直樹 公益財団法人山階鳥類研究所, その他部局等, 研究員 (90619917)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 希少猛禽類 / 炭素 / 窒素 / 安定同位体比分析 / 餌種 / 博物館標本 / エゾシカ残滓 / 個体群動態 |
研究開始時の研究の概要 |
長期にわたり蓄積された博物館標本を用いて希少猛禽類の歴史的な食性を安定同位体比によって復元し、人為的な餌への依存性と個体群動態との関係を解明する。北海道に生息するオジロワシをはじめとする希少猛禽類の個体数は、北海道の開発が本格化した明治時代以降、生息環境の悪化により大きく減少したが、近年、増加に転じている。その原因として、エゾシカ猟の残滓や漁業者による投棄魚など利用可能な餌資源が増加し、若鳥の生存率が高くなったためと考えられている。本研究では、博物館等所蔵の剥製標本と冷凍死体の組織の安定同位体比によって、明治時代以降現在までの食性を復元し、希少猛禽類の個体群動態への影響を明らかにする。
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研究実績の概要 |
明治時代以降、北海道の開発が本格化し、森林や河川環境が大きく変化したため、オジロワシをはじめとする希少猛禽類の生息数は大きく減少した。しかし、1990年代以降、北海道のオジロワシの生息数は増加に転じている。その原因として、エゾシカ猟の残滓(食用肉以外の廃棄部位)や漁業者による投棄魚など人為的な餌資源が増加し、若鳥の生存率が高くなったためと考えられている。1800年代後半から2000年代までのオジロワシの羽毛(初列風切羽と体羽)と筋肉の安定同位体比を用いて利用する餌種の歴史的な変化を推定した結果、炭素と窒素ともに1990年代後半から個体間のばらつきが大きくなり、利用する餌生物種の増加が示唆された。 しかし、これまで集めたサンプルは主に1990年代から現在までに採集された標本がほとんどで、古い年代の標本は収蔵されているものが少なく、特に生息環境が大きく変化した1970年代の標本については、個体数の減少や保全により学術標本としては博物館に保存されている標本は非常に少ない。このため、博物館標本の中でも展示用や個人で所蔵されていた展示用剥製(本剥製)を対象に1970年代以前もしくはその時代に作製された標本を調査した。標本の特定にはラベルに記載された年代もしくは博物館での収蔵記録をもとに年代を推定した。その結果、4機関からオオワシ11個体、オジロワシ12個体、クマタカ9個体、シマフクロウ2個体の標本から微量の羽毛サンプルを採取した。サンプルの羽毛は洗浄し、分析の前処理を行った。 希少猛禽類の餌として推定される餌動物のサンプルも併せて収集を行った。希少猛禽類の餌としては、これまで沿岸部で漁業によって廃棄される魚類や内陸部で捕獲され残滓として出されるエゾシカなどのサンプルを収集したが、それらに加えて内陸部の湖沼に生息する魚類及び哺乳類のサンプルも集めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1880年代と1990年代以降の標本については、猛禽類医学研究所、環境省釧路湿原野生生物保護センター、北海道内の博物館等の関係機関の協力により必要なサンプルを集めることができたが、特に生息環境が大きく変化した1970年代前後の標本については、個体数の減少や保全により学術標本としては博物館に保存されている標本が少ないために学術標本からのサンプル採取には限界があった。 1970年代以前に収集された希少猛禽類の標本は、装飾用の本剥製にされたものが多く存在する。近年になって、博物館に寄贈されることが多くなってきたが、多くの標本は採集年がわからないものとして扱われてきた。しかし、採集年代不詳とされていた標本の収蔵時期や残されたメモなどの付随データから、その標本が採集されたおおまかな年代を推定することができたため、北海道内の博物館において、1990年代以前の標本サンプルを得ることができた。北海道の開拓が本格化する1800年代後半以前のサンプルについても、文化財の調査を行い、サンプル採取にむけた協力をお願いした。併せて、これまで集められていなかった内陸湖沼及び河川の餌動物についても関係機関から寄贈を受け、サンプルを採取した。 新型コロナウイルス感染拡大により、サンプルを収集する期間が予定よりも遅くなったことと、分析を行うための機関もコロナの影響によって分析が滞っていたため、来年度にまとめて分析を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、集められたサンプルの安定同位体比分析を進めて、大きく環境が改変し、個体数が減少した時期である1970年代以前の希少猛禽類の餌種の変化について解析を行う。希少猛禽類の個体数が減少する以前の標本を含めた解析により、歴史的な餌種の変遷を明らかにしていく。エゾシカの残滓への依存については、1990年代以降のオジロワシ、オオワシのサンプルに加えて、クマタカ、シマフクロウについても同様の分析を行い、希少猛禽類への人為的な餌の影響を検討する。また、安定同位体比分析については大学の研究施設の利用などによって分析を進める予定である。北海道では、鉛弾を用いた狩猟によってもたらされるエゾシカの残滓を希少猛禽類が採食し、鉛中毒が問題となっている。今後は各餌生物の寄与率を推定し、 希少猛禽類におけるエゾシカ残滓の影響を明らかにする。
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